『営業の働き方改革』をどう進めるか【後編】

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~「標準化」のスムーズな導入~

前編では、『営業の働き方改革』において重要なファクターとなる「属人化」について、その意味や発生する背景、メリット・デメリット(リスク)について紹介しました。気づかぬうちに常態化している「属人化」が、組織における懸念事項になっている点を、ご理解いただけたことと思います。後編では、具体的に業務を「属人化」から「標準化」へと移行するためのポイントとプロセスについて考えてみましょう。

←『営業の働き方改革』をどう進めるか【前編】はコチラ!


「標準化」とは?

「属人化」の対義語は「標準化」です。「標準化」とは、業務の進め方やノウハウを「可視化&情報共有」することで、誰でも同じようにその業務が行える状態を指し、「マニュアル化」と呼ばれることもあります。

現在、社会全体で『働き方改革』のために、「属人化」した業務を「標準化」し、業務効率の改善を図る流れが加速しています

<標準化のメリット>

◎業務の品質が維持できる​

業務の手順を「標準化」し、それに従って仕事をすることで、「誰でも同じようにその業務ができる」ようになります。また「可視化&情報共有」の仕組みによって客観的なチェック機能がはたらくので、業務の品質を一定に保ちやすくなります。

◎時間や思考力を有効に使える

「標準化」によって同じ手順、同じフォーマットが共有できるため、個人がフォーマットや仕事の進め方を考える必要はありません。貴重な資源である「時間」と「思考力」を、他の面で有効活用できます。

◎「属人化」を防げる

「標準化」最大のメリットは、「誰でも同じようにその業務ができる」ことです。特定の個人にしかできないことが他者でもできるようになれば、互いに業務をカバーし合う風土が根づき、メンバー・企業双方のメリットになります。

<標準化のデメリット>

◎やる気が失われやすく、個人が成長する機会が減る

「決められたことを決められたように行う」「誰でも同じようにその業務ができる」という「標準化」の特長は、裏を返せば「創意工夫の必要が無い」「自分でなくても良い」として、メンバーのモチベーションを下げる可能性があります。マネジメント側は、改善や創造的な意見が生まれやすい環境を守るため、モチベーションを保つ工夫や仕組みづくりを進める必要があります。

「標準化」の導入プロセス

「情報共有」を目的に、チャットや定例ミーティングを始める企業は少なくありません。しかし決定的な成果が得られないまま、いつの間にかやめてしまうなど、取り組みがなかなか続かない実態があるようです。続かない理由は、単に「手段」だけで課題を解決しようとするからに他なりません。何より、仕組みを利用するメンバーの「意識」が変わらなければ、次第に使われなくなるのは当然です。

「属人化」している状態が、当事者にとって都合が良いという実態は、前編でまとめた通りです。いずれにしても、当事者や職場の意識改革を進めるのは簡単ではありません。では、「標準化」を円滑に定着させるために、どのような配慮や工夫が必要なのでしょうか。

【ステップ1】問題意識の共有

まずは、「属人化」への問題意識を部署やチームで共有します。そもそも「属人化」の解消と防止は、部門長などマネジメント側が担うべき課題です。しかし、マネジメント側が現場の事情を十分に認識していないケースが少なくありません。日頃から売上高や利益率など限定的な数値データばかりを気にして、「標準化」がもたらす業務改善や環境整備への関心が低い点が影響しています。

「属人化」は社内風土に起因することが多いので、決裁権のある上長と問題意識を共有しながら、組織ぐるみで風土改革を進める必要があります。「属人化」の当事者をうまく巻き込む上で、決裁権者との問題意識の共有は必須条件です。

また、「標準化」をスムーズに進めるため、社内にプロジェクトチームをつくるのも効果的です。組織規模に応じて多様なメンバーを集め、目的と目標を明確にした上でプロジェクトを進めましょう。

【ステップ2】業務の棚卸と仕分け

次に、「属人化」している業務の棚卸しをします。ポイントは業務分掌(責任の所在を明らかにするため、担当する業務の範囲を明確にすること)と、その可視化です。

ここで出た業務のすべてを、「属人化でなければ成り立たない業務」と「仕組み化できる業務」に仕分けます。さらに、「仕組み化できる業務」を「緊急度」「重要度」「効果」の軸で整理し、どこから改善を進めるか決めます。

【ステップ3】業務マニュアルの作成

棚卸した業務内容と、洗い出した問題点をもとに、「業務マニュアル」を作成します。
「使いやすい業務マニュアル」は、以下の6つの要件を満たしています。

1.業務の全体像が俯瞰(ふかん)できる

2.実現すべき業務が理解しやすいよう「考え方の軸」が示されている

3.「到達目標」が、明確な行動レベルで示されている

4.実務の実施確認が「チェックリスト」で示されている

5.用語の意味、ノウハウ・コツなど、推測しにくい事柄も記載されている

6.クレーム・トラブルなどの「事例」を通して、業務内容が「見える化」されている

【ステップ4】管理するデータを決める

膨大な情報すべてを共有管理するのは大変です。そこで、以下の例のように、共有すべき情報やデータを決めます。

■顧客情報
取引先企業や先方担当者の情報、取引や商談の履歴

目標管理
部署・チームと個人の目標、目標の進捗状況と見込み

案件管理
商談日、取引先、営業担当者、商材、商談の経緯と内容、
受注確度(見込み)、受注予定日、売上予測額(見込み)
売上実績

行動管理
営業が取った行動の内容、担当者、フェーズ(段階や局面の状況)、
改善施策と実施結果、使った資料(提案書など)

【ステップ5】業務を「仕組み化」して運用する

ステップ2で明らかになった「仕組み化できる業務」の改善順位に従って、「情報共有&可視化」の仕組みを試験運用してみましょう。
「仕組み化」される仕組みは、「いつ、どこで、誰がやっても同じ効果を出せる方法」でなければなりません。この「仕組み化」によって、メンバー間の情報共有が可能になります。ただし、最初からすべての情報を共有するのは負荷が大きいので、情報に優先順位をつけ、共有範囲を少しずつ広げていくと良いでしょう。

<理想的な情報共有の仕組み>

・営業活動に関する情報を全員が閲覧できる
・案件の更新、メンバーの行動情報等がリアルタイムで通知される
・仕組みから、成果につながる次の行動が浮かび上がってくる。

【ステップ6】PDCAを回す

「仕組み化」だけでは、まだゴールではありません。作った時点で良い仕組みであっても、外部環境や社内状況の変化で改善する必要が生じます。その仕組みが現在の業務に対して常に最適化されているか、継続的なチェックが不可欠です。

試験運用を進めながら検証とフィードバックをくり返し、随時、業務マニュアルや仕組みに必要な改善を行っていきます。

【ステップ7】「情報共有」を尊重する風土をつくる

「属人化」の当事者にとって、仕事が滞り直接的な利益のない「情報共有」に意味はありません。特に優秀な営業パーソンなら「情報を提供するばかりで、資料作成などよけいな時間と手間がかかる」と感じるはずです。

求められるのは、「低い負荷で情報共有できる仕組み」「使いたくなる仕組み」です。例えば、「情報共有」するごとにポイントがたまり、四半期の集計でトップのメンバーには賞品や賞金を出す。あるいは「情報共有」に対して上司やメンバーが必ずコメントでフィードバックするといった配慮を心がけましょう。

その他にも、基幹システムの導入や業務担当者の増員、定期的な交替など、同じ業務を同じ担当者に任せきりにしない工夫が必要と言えます。


過度な「属人化」は、組織のパフォーマンス低下につながります。あなたがマネジメント側の立場なら、「標準化」への取り組みと同時に「属人化」しない仕事の割り振りを日頃から心がけて下さい。

しかしながら、「属人化」にもメリットがあることもお忘れなく。「属人化」の方が、業務の確立やノウハウの蓄積が進みやすいのも事実です。その場合、一定のタイミングで業務が可視化・標準化する流れを作っておくなど、「標準化」とうまく組み合わせて運用することが必要となります。

創意工夫を加え、個人ではなくチームで業務を遂行するという発想への転換で営業の「働き方改革」の実現を目指していきましょう。