「勝つ戦略」に役立つフレームワーク【後編】
有効な戦略を立案するため、現状を把握し、分析するツールとして、私たちはさまざまな「フレームワーク」を使います。フレームワークとは、分析手法や思考の枠組みのことです。その意味を的確に理解して有効活用するため、今回は、前編でご紹介した「3C分析」とともに基本的なフレームワークである、「SWOT分析」について考えてみましょう。
~「SWOT分析」で戦略の種を見つける~
「SWOT分析」は、1920年代にハーバードビジネススクールで開発された戦略計画ツールで、企業や個人の目標が明確であれば、かなり有用なフレームワークと言えます。「SWOT分析」は「内部分析」と「外部分析」という側面から、自社の「強み」と「弱み」を明らかにするものです。「内部分析」は自社分析、「外部分析」は競合と市場(顧客)分析に相当します。この点が「3C分析」に非常に似ており、アプローチが多少違うものと考えて差し支えありません。「SWOT分析」は特に、自社のビジネス環境における成功要因を導きだすことを目的としたフレームワークです。
会社を対象に考える「内部分析」
「内部分析」は、自社の人・モノ・カネ・情報という経営資源(内部環境)を他社と比較し、相対的に「強み」と「弱み」に分けていきます。
【強み(Strength)】
自社の経営資源で、ビジネスの武器(強み)になる事柄を指します。他社より優れており、ビジネス上の武器になり得るものなら何でも構いません。「強み」は自社の社長や従業員より、お客さまや市場の方が良く認知しているものです。
「なぜ当社とお付き合い下さっているのですか?」と問いかけた時、「それは〇〇だから」と返ってきた答えが、自社の「強み」です。自分たちが「強み」と認識していない点が、実は大きな「強み」になっているケースは珍しくありません。もっとも正しい答えは、お客さま(市場)が持っています。
【弱み(Weakness)】
日ごろから社内で不平不満の温床になっている事柄、それが「弱み」と言えます。会社や上司、他部門へのうっぷんや愚痴、顧客のクレームなど、ネガティブな思考や行動につながる要素が、自社の「弱み」になっています。
もちろん、お客さま(市場)に問うことも一つです。「何かご要望はありませんか?どんな小さなことでも結構です」と尋ねて、「もう少し〇〇なら」と返ってきた答えが、ヒントになるでしょう。「耳が痛い」「そうは言っても…」と反論したくなる。そこに、自社の「弱み」が隠れています。
\POINT/
ただし「強み」も「弱み」も会社、つまり「内部環境」に限定して考えてください。例えば、「景気が悪くて売り上げが落ちている」「法改正で商談が進めにくくなった」などは、弱みではなく「外部環境」です。売り上げが落ちていること、商談が進めにくくなったことこそ真の原因であり、「弱み」です。この場合、「営業力が弱い」「製品に魅力がない」などが真の原因、「弱み」だと言えます。
社会の動向を見る「外部分析」
「外部分析」では、景気の動向や法改正といった社会的要因(外部環境)を見ていきます。自社では変えることのできない政治や経済の動向、少子高齢化など社会的事象を指します。
【機会(Opportunity)と脅威(Threat)】
自社にとってチャンス(機会)、またはピンチ(脅威)になる、社会情勢や新技術の開発などが「外部環境」です。「少子高齢化」「TPP」「法改正」など、新聞やニュースで見聞きするキーワードや出来事がこれに当たります。
ここで押さえておきたいのは、「外部環境」は企業や事業によって、チャンスにもピンチにもなる点です。「円高」は輸入にはチャンスですが、輸出ではピンチにつながりやすい。また「少子高齢化」は子供服メーカーにとってはピンチですが、シニア向け商材メーカーにとってはチャンスになります。
業界や事業に限らず、受け止め方次第でチャンスがピンチに、ピンチがチャンスになります。例えば、「団塊世代の退職が増える」という社会の動きが、自社にとってどんな意味をもたらすかを深く真剣に考えることで、「機会(チャンス)」にも「脅威(ピンチ)」にもなります。どんな戦略で仕事を進め、どんな付加価値を提供する会社かによって、その意味は大きく変わるのです。
この4つの象限の頭文字をとって、「SWOT分析」と呼びます
【内部分析】
強み(Strength) 目標達成に貢献する組織(個人)の特質。
弱み(Weakness) 目標達成の障害となる組織(個人)の特質。
【外部分析】
機会(Opportunity) 目標達成に貢献する外部の特質。
脅威(Threat) 目標達成の障害となる外部の特質。
「SWOT分析」の効果的な進め方
1.目的を明確にする
「3C分析」と同じく「SWOT分析」でも、まずは「目的」を明確にします。目的が不明確なままでは、「機会」「脅威」がブレやすくなるからです。「強み」と「弱み」は社内のことなので、目的が明確ならブレる事はありません。しかし「機会」と「脅威」は目的に影響されやすく、同じ事象であっても「機会」にも「脅威」にもなります。
【例】
・売上が減っている既存事業の立て直し
・高齢化する中心顧客層への対策
2.外部環境から分析する
目的が定まったら、まず「外部分析」から始めましょう。気がついた事は、どんな小さなことでもすべて挙げてください。正解、不正解はありません。情報が多ければ多いほど「機会」と「脅威」を明確に分けることができます。
【例】
(機会)少子高齢化で子どもの数が減る一方、子ども一人にかける支出は増えている
(脅威)少子高齢化で子どもの総数が減っているため、生徒数も減っている
3.内部環境の分析は慎重に
「内部分析」では自社のリソースを分析します。そのプロセスで社内にトラブルが起きないよう、発言や対応には十分注意しましょう。特に「弱み」とされる部署・チーム・体制・製品の関係者は、いい気がしないものです。時に、誹謗中傷合戦に発展することさえあります。「SWOT分析」は、事業をより良くするために行う取り組みです。くれぐれも本末転倒にならぬよう、細心の注意で進めてください。
明確な意思決定のためには、SWOTの正しい理解が必要です。戦略を進める意思決定者は、分析されたSWOTをもとに目標が達成可能であるか判断します。達成不可能と判断した場合には、別の目標をもとに再び「SWOT分析」をやり直す必要があります。達成可能と判断した場合は、以下のような観点から仮説を立て、創造的な戦略につなげていきます。
・どのように強みを活かすか?
・どのように弱みを克服するか?
・どのように機会を利用するか?
・どのように脅威を取り除き、脅威から身を守るか?
「SWOT分析」は、複眼的な視点からより多くのヒントを得るためにも、会計・営業・経営層・エンジニアなど、多彩な顔ぶれのチームで進めるのが理想的です。
このように「SWOT分析」で「強み」「弱み」「機会」「脅威」が明らかになりましたが、それだけでは未来に打つ手は見えません。実は、「SWOT分析」は単なる準備段階に過ぎず、この後に「勝つための戦略」を導き出す上で不可欠な「クロス分析」があります。
「SWOT分析」を有効化する「クロス分析」
これは「SWOT分析」をアレンジした図で、外部環境(機会・脅威)と内部環境(強み・弱み)を組み合わせたマトリックスになっています。このマトリックスに新しい戦略の種を書き込んでいきましょう。
A 強み × 機会
「強み」と「機会」は最強の組み合わせです。自社の得意な分野・方法、他者より優位に立っているモノを活かし、どのように機会を創出するか考えます。例えば…
【強み】営業力がある。マーケティング力がある。
【機会】営業力のない企業が多い
【強み】×【機会】
⇒営業力・マーケティング力のない企業に、営業力・マーケティング力を提供する
と、新たな方向性を導き出します。さらに、同じ機会に違った強みを組み合わせる事で、数多くの戦略の種が見つかるはずです。Aのポイントは、どの「強み」と「機会」を組み合わせているか明確にし、誰にでも理解しやすい言葉で集約する点です。
B 強み × 脅威
「強み」と「脅威」の組み合わせでは、「強み」を活かして「脅威」にどう立ち向かい、「機会」に変えていくかを考えます。
【強み】営業力がある。マーケティング力がある。
【脅威】営業力のある同業他社が、市場に攻勢をかけている
【強み】×【脅威】
⇒同業他社と徹底的な差別化を図るため、営業・マーケティングノウハウを体系化する
自社にもともと営業力・マーケティング力があるので、他社との差別化を徹底的に図って違いを見せつけることで、「脅威」を「機会」へ変えていきます。具体的な方法は後でいくらでも考えられるため、「クロス分析」では方向性が明示できれば十分です。
C 弱み × 機会
「機会」を的確にとらえるため、「弱み」をどう克服していくのか考えます。「弱み」の克服は「強み」を増やす一番の早道です。「弱み」を「弱み」のままにしておくのではなく、「強み」に変えていきます。
【弱み】慢性的な人材不足
【機会】営業力のない企業が多い
【弱み】×【機会】
(慢性的な人材不足で、受注した仕事をさばききれていない)
⇒優秀な人材を確保して、受注した仕事を効率よくさばく
と、方向性を導き出しました。とは言え、そもそも「弱み」には原因があります。この場合の「弱み」である「慢性的な人手不足」の背景には、会社の組織・風土に関する問題がありそうです。もしそうなら「弱み」を克服するため、まずは組織・風土に手を加える必要がありそうです。この「弱み」を克服して「強み」に変える事ができれば、以前よりずっと確かな「強み」につながります。
D 弱み × 脅威
ここでは、被害を最小限にとどめるための戦略を考えます。自社の「弱み」の上さらに「脅威」とは、まさに“泣きっ面に蜂”の状態。大きなダメージに見舞われないうちに、早々に撤退した方がよいでしょう。
【弱み】慢性的な人手不足
【脅威】営業力のある同業他社が、市場に攻勢をかけている
【弱み】×【脅威】
⇒数では勝てないので、該当商品・サービスの拡販を辞め、別の商品に注力する。
「弱み」と「脅威」の組み合わせを、無理に「強み」と「機会」に変えるのではなく、既にある「強み」と「機会」を最大限に活かして、戦略を考えた方が賢明でしょう。最悪のシナリオを想定しながら、課題を整理していきましょう。
この時点で、ABCDの各象限にはさまざまな戦略の種が書き込まれているはずです。そのいくつもの種から、効果が期待できる種、すぐに手が付けられる種をピックアップします。こうしてピックアップした種が「成功要因」であり「勝つための戦略」の基礎になります。
まずは「SWOT分析」できめ細かに分析し、次に「クロス分析」であらゆる可能性を考慮しながら、勝つために必要な戦略の種を考え、本当に実行すべきものを選び出す。
これが「SWOT分析」の成果を最大限に得るためのプロセスです。
「SWOT分析」をもとに「クロス分析」を行う際、さまざまな戦略の種を考えつきます。自然に生まれた戦略の種を、絶対に否定しないでください。大切なのは、たくさんの戦略の種を考えること。最終的に「勝つための戦略」につながる成功要因は、より多くの戦略の種から芽生え、幹を太くし、葉を茂らせ、花を咲かせます。
2022.10.07
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