KPIマネジメント/組織力で勝つための仕組みづくり【前編】
~「営業マネジメント」に不可欠なKPIとは~
営業マネジャーにとって、「業績の達成」と「メンバー育成」は最大の関心事です。そのカギを握るのが、「戦略に基づいた具体的な計画立案」と「KPIを活用したプロセス管理」。今回は、組織力で勝つための仕組みづくりについて考えてみましょう。
現代のビジネス環境において組織力で勝つためには、営業マネジャー自身のパラダイムシフトが不可欠です。これまでに培ってきた経験や勘など、数値では計測できない要因を成果に関連付けるのではなく、メンバーが再現しやすい行動基準を設定し、メンバー間で問題解決やノウハウの共有や蓄積ができる仕組み・風土づくりを、営業マネジャーが率先して進める必要があります。
個人で勝つのではなく、組織(チーム)で勝つ。そのために欠かせないのが、KPIマネジメントです。目標達成プロセスにおいて重要な指標として活用されるKPIとは、Key Performance Indicatorの略で「重要業績評価指数」を指します。
KPIによるプロセス基準の構築
まずは「プロセス基準の構築」から始めましょう。KPIとは、メンバーのパフォーマンスを測るための指標です。
「それなら最終的な売上高(個人目標の達成度)で測れるのではないか」と思われがちですが、たとえ同額の売上目標を達成したとしても、メンバーのAさんとBさんとでは、その内訳や仕事の進め方がまったく異なるのが普通です。それぞれの達成プロセスを分析し、問題点を特定して改善に役立て、さらなる売上増につなげるためにKPIを活用しましょう。KPIは、売上額や利益率など目標達成度を測るものではなく、目標を達成するためのツールなのです。
KPIに関しては、「SMARTの法則」の定義と照らし合わせながら、設定すると良いでしょう。適切なKPIとは、
「S」pecific・・・・具体的で
「M」easurable・・ 計測でき
「A」chievable・・ 達成可能で
「R」ealistic・・・・現実的な
「T」ime-related・・期限のある 指標であることが重要になります。
業種や業態、組織の規模によっても、KPIとして使われる指標は異なります。それぞれの分野で数値化できるものを洗い出してみましょう。例えば、
◆営業に関連するKPI例◆
新規開拓のコンタクト件数、アポイント設定件数、訪問件数、商談件数、
サンプルや資料の送付数、見積り依頼または送付件数、成約件数、成約率、
受注額、受注単価、売掛金回収率、個人の売上高、顧客満足度、市場認知度、
問い合わせ件数、成約までの平均日数、受注率(成約率)、リピート率、
売上達成率、商品・サービスの市場占有率(市場シェア)、他
◆飲食業、店舗販売業に関連するKPI例◆
平均接客時間、平均購入単価(客単価)、顧客満足度、来店者数、店舗別売上高、
店舗・商品・サービスの認知度、広告種類別来客数、問い合わせ件数、利益率、
商品原価率、回転率、リピート率、リピーター率(常連比率)、売上達成率、他
◆製造業に関連するKPI例◆
製造コスト(製造原価)、在庫保有期間、改善提案件数、改善件数、生産数、在庫数、
注文数、不良数(欠陥品数)、欠品件数、事故発生件数(トラブル発生件数)、原価率、
クレーム件数、不良率、時間稼働率、欠品率、生産効率、事故発生率、製造原価率、
多能工比率、OEE(総合設備効率)、他
◆カスタマーサポートに関連するKPI例◆
平均対応時間(平均処理時間、平均通話時間)、サポート満足度、入電数(着信数)、
商品・サービスの市場認知度、問い合わせ件数、クレーム件数、解約件数、稼働率、
応答率、呼損率、クレーム率、解約率(離脱率)、他
◆オンラインビジネスに関連するKPI設定例◆
CPA(顧客獲得単価、顧客獲得コスト)、ROAS(費用対売上高)、ユーザー満足度、
Webサイトの認知度、ホームページへのアクセス数(訪問数)、
平均ページビュー数(PV数)、直帰率、Webサイト滞在時間、広告種類別訪問客数、
平均購入単価(顧客単価)、検索エンジン流入件数、コンタクト件数
コンバージョン件数(新規問い合わせ件数)、コンバージョン率、
リード獲得件数(新規見込み顧客獲得件数)、商談件数、商談率(セットアップ率)、
販売件数、販売率(営業成約率)、サービス利用者数、継続者数、顧客転換率、
リピート率、売上達成率、他
上記の指標をもとに、以下の点に注意しながら分析を進めていきます。
①週間、月間、四半期など、一定の測定期間を定める
②個別の指標を見るだけではなく「訪問数に対する成約率」「新規成約数に対するリピート率」など、個別の指標を掛け合わせながら分析する
③指標は管理しやすいよう、ポイントを絞って少ない種類で設定する
④設定したKPIが妥当なものであるか適宜判断しながら適用する
KPI分析から見えてくるもの
設定したKPIの分析から見えてきたポイントを、再び目標を達成するためのツールとしてつなげることが重要です。例えば以下のような疑問点や改善点が見えてきます。
「コンタクト数や訪問数に対する成約率が低い」のは、相手のニーズを十分に把握しないまま非効率な訪問をしているからではないか。
「商談回数や見積り送付数に対して成約率が低い」のは、提案内容や提案方法が悪いのではないか。また、成約に至る心配りはできているか。
「受注件数に占める解約の割合が多く、売掛金の回収も滞って利益向上につながっていない」のは、成約のみを目的に安易な営業を行っているのではないか。
「電話でのアポイント率は高いが、実際に訪問した後の見積もり依頼数や成約率が悪い」のは、対面営業の経験値が少ないからではないか、キーマンを特定できていないのではないか、相手のニーズがきちんと把握できていないのではないか。
KPI導入のメリット
KPIを設定する重要性やメリットとして、以下の点が挙げられます。
◎会社全体の売上向上につながる
営業職の場合、一般的に個人の実績は売上高で評価し、昇進や昇給、賞与に反映されます。
しかし、努力しているのになかなか成果につながらないメンバーは、もしかすると、伸びない原因を本人が把握できていないのかもしれません。
単に結果だけを見るのではなく、プロセスを見ることで個々の行動が改善され、結果の向上につなげられます。
◎わかりやすい営業活動の指針となる
目標を数値で設定するだけではなく、目標達成プロセスの指標も数値で設定することで、メンバーが何をどのようにすればよいか理解しやすくなります。
◎タイムリーに営業改善手段を実践できる
例えば、KPIの分析から「訪問数を増えれば受注率が上がる」という傾向がわかれば、メンバーの増員を検討するなど必要な対応がすぐにとれます。
◎予算を設定しやすくなる
予算は一般的に、会社側の希望的観測で設定されがちです。
しかしKPIが明確に設定されていればそれが論理的根拠になるため、どの指標をどう上げれば予算達成につながるか、現実的で詳細な予算設定が可能になります。
◎メンバーのモチベーション向上とコミュニケーションの活発化
具体的な数字による活動指標が提示されるので、メンバーのモチベーションは上がります。また、KPI目標値が具体的な数値として可視化されるので、チーム内のコミュニケーションは活発化が期待されます。
つまりKPIには、以下のような導入メリットがあると考えられます。
◎目標に対する進捗度を可視化できる。
◎取り組みが有効であるか、客観的に評価できる。
◎組織の問題点や停滞要因を洗い出せる。
◎組織内で評価基準を共有できる。
◎チームワークが高度化する。
◎チームミッションへの意識が向上する。
◎業務遂行へのモチベーションが向上する。
◎達成感や自己効力感(いわゆる自信)が得やすい。
組織力で勝つためにKPIマネジメントがいかに有効であるか、ご理解いただけたことと思います。後編では、「プロセス管理」において顕在化した課題に、マネジャーはいかに取り組むべきか。またKPIマネジメントを通じて、どんなマネジメントスキルが得られるのかについてお話ししたいと思います。
2022.10.07
2022.09.22
2022.09.09
2022.09.02