KPIマネジメント/組織力で勝つための仕組みづくり【後編】
~営業マネジャーが取り組むべき課題~
前編では、KPIの設定基準と導入メリットについて、具体例とともに紹介しました。後編では、顕在化した課題にマネジャーはいかに取り組むべきか。またKPIマネジメントを通じて得られるスキルについて考えてみます。
目標が達成できなかった時、人はすぐに大きな変化や対策を求めがちです。しかし、原因を特定する前に動くことで時間と労力のロスが生じやすく、望む結果が出にくいため結果的にモチベーションにも大きく影響します。目標が達成できなかったことを「原因を見直す機会」ととらえることが大切です。
前編で紹介したように、設定したKPIを分析することで、さまざまな疑問点や改善点が見えてきます。それらは目標を再設定する際の重要なポイントになります。
例えば、
・コンタクト数や訪問数に対する成約率が低いのは、相手のニーズを十分に把握しないまま非効率な訪問をしているからではないか。
・商談回数や見積り送付数に対して成約率が低いのは、提案内容や提案方法が悪いのではないか。
また、成約に至るまでの心配りをしているか。
・受注件数に占める解約の割合が多く、売掛金の回収も滞って利益向上につながっていないのは、成約のみを目的に安易な営業を行っているのではないか。
・電話でのアポイント率は高いが、実際に訪問した後の見積もり依頼数や成約率が悪いのは、対面営業の経験値が少ないからではないか。キーマンを特定できていないのではないか。相手のニーズがきちんと把握できていないのではないか。
このようにKPIを分析して目標設定の原点に立ち返り、広い視野で現状を俯瞰することがマネジャーに求められます。
目標が達成できなかったときに マネジャーが取り組むべき10のポイント
1. 目標が設定された経緯を振り返る
そもそも、その目標は誰がどのように設定したのでしょうか。「去年は売上が倍増したから、今年はその倍はいける」など、上位管理者の主観や希望的観測をもとに安易に決めてはいませんか。新しい製品やサービスは、どんなベテランであろうと経験値がないので、見当をつけて目標設定せざるを得ません。それでも、過去の類似ケースや市場の情報を集め、1件の取引が成約に至るまでの手間や日数、必要人員なども把握した上で、どれだけの投資が必要か十分吟味し、目標設定する必要があります。
売上目標を与えられる営業パーソンも、なぜその目標になったのか、数値の根拠を上司に確認することも大切です。
2. 予測と現実を比較する
どうして目標が達成できなかったのか、KPIとは別の視点から、営業プロセスの段階ごとに予測した状態と現実とのギャップを比較してみましょう。
3. 不足しているスキルのトレーニングをする
案件数やその質が十分であるにも関わらず、電話のアプローチがうまくいかなかった場合は、電話のトークに問題があるのではないでしょうか。また、商談の準備に時間がかかりすぎて十分な商談数をこなせていないのであれば、資料作成の効率を上げる工夫が必要かもしれません。
いたずらに新しいメンバーを採用して人数を増やすより、既存メンバーのスキルアップに注力した方が経営効率は良いはずです。特に新卒者や入社間もない中途採用者はどのスキルが不足しているか見極め、トレーニングの機会を与えましょう。トレーニング後すぐに能力を発揮できるケースはまれなので、業務に慣れるまでの時間を考慮して目標設定をする必要があります。
4. 採用方法を見直す
前項で、新たに採用するより既存メンバーをスキルアップさせた方が良いと述べましたが、今後の採用に関しては適切な人材を採用するために、採用基準や面接時の質問項目などを見直す必要があります。たとえ前職で実績があったとしても、必ずしも自社ですぐに実力を発揮できるとは限りません。業務の詳しい内容や必要なスキル、またチームに欠けている要素を書き出しながら整理してみましょう。
5. メンバー各自の達成率を確認する
具体的な数字による活動指標が提示されるので、メンバーのモチベーションは上がります。また、KPI目標値が具体的な数値として可視化されるので、チーム内のコミュニケーションは活発化が期待されます。
6. KPIを見直す
いったん設定したKPIは一定期間続けて計測するべきであり、安易に計測をやめることはおすすめしません。しかし、まだ計測していない指標や、重要視していなかった指標の中に、目標達成との相関関係が見られることがあります。あらためてKPIを見直してみましょう。
7. プロセスごとの案件数を確認する
どれほど優秀な営業パーソンでも、案件数が不足していては目標を達成できません。全体の案件数が十分であったか確認しましょう。十分な案件数にも関わらず達成できなかった場合は、プロセスの初期・中期・後期の案件数を見てみましょう。初期は十分な案件数だったとしても、目標達成に近い後期の段階で案件数が少なかったのかもしれません。その場合、案件数を確保する手段を考える必要があります。
8. どのプロセスで失敗したか、過去の実例と比較する
プロセスごとのコンバージョン率を過去の実例と比較すると、弱点が見えてきます。初期のアプローチ、中期のプレゼンテーション、後期のクロージングなど、失敗した段階を知ることで弱点を明らかにし、営業活動に向けて対策を練ります。
9. 平均取引額の変化を確認する
案件数は十分でプロセスごとのコンバージョン率にも問題がないのに、目標が達成できなかったのなら、取引額に変化があるかもしれません。過去の平均取引額と比較してみましょう。差が大きい場合、今後、目標達成するためにより多くの案件数が必要になります。すると営業パーソンの増員や業務効率化などの対策も必要になります。
10. 営業サイクルの変化を確認する
案件数、コンバージョン率、取引額に問題がないのに目標が達成できなかった場合、成約までの営業サイクルが長くなっている可能性があります。成約までに手間がかかっていないか、営業に直接関係ないことに時間をとられていないかなど、原因を明らかにしましょう。
目標達成の要因はさまざまです。達成できた時、達成できなかった時それぞれに、達成要因と未達原因を把握することが大切になります。把握した要因は社内で共有し、次期の目標達成に反映させましょう。
KPIマネジメントを通して身につく7つのスキル
組織力で勝つためには「達成のあるべきプロセス」と「実際の活動成果」との間にPDCAを回し、ギャップを埋めていかなければなりません。チームを率いるマネジャーに求められるのは、先が見えないながらも、仮説をもとに目標達成に向けた戦略を立て、達成プロセスの基準を明確にすること。そして日常のプロセス管理を通じて検証をくり返し、より精度の高い戦略やプロセス基準へ見直していくことです。
つまり、仮説と検証のPDCAをスピーディーに回し、自発的に改善しながら活動の質を高めることができるチームこそ、真の強さを持つ組織だと言えます。
またKPIマネジメントを通して、マネジャーは次のスキルを養うことができます。
1.マーケティング・戦略策定スキル
マーケティング理論を実際の戦略構築に活用できる。
2.プロセス構築スキル
達成プロセスを具体的な業務に落とし込むことができる。
3.計画策定スキル
バランスがとれた詳細な目標達成計画を策定できる
4.プロセス管理スキル
プロセス管理の基準に基づいて、的確に管理できる
5.面談・指導スキル
メンバーを動機づけ、成長に向けてコミュニケーションがとれる
6.ファシリテーションスキル
メンバーの意見を引き出しながら、合意形成に向けたコミュニケーションがとれる
7.問題解決スキル
問題を明確にし、要因を掘り下げ、あるべき方向に解決することができる
「個人の力でモノが売れた時代」から、チーム力を高めることで「顧客満足度を基準に売り方を磨く時代」へ時代は変化しました。こうした背景のもと、組織力で勝つための仕組みをつくる上で、KPIマネジメントはますます重要視されています。
皆さんも自社に適したKPIを設定し、その結果を業務改善に役立てることで、着実にチーム力を高めて下さい。
2022.10.07
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