進化の基盤となるチームビルディング 【後編】
~すぐれたチームをいかに育むか~
前編では、「すぐれたチームとは?」という視点から、『チームビルディング』の定義とメリット、「良いチーム」の特徴について話を進めてきました。後編では、具体的にどのような点に注意しながら『チームビルディング』を進めていくのか、また、チームリーダーに求められるポイントについて考えてみましょう。
『チームビルディング』のプロセス
チームには、プロジェクトチームのように明確な目的をもって編成される場合と、従来型組織のグループが変容してチームになる場合があります。実態は、後者の方が一般的です。そこで、従来型組織の小グループで活動していた集団が、チームへと変容するプロセスを見てみましょう。
①きっかけ
変化には必ずきっかけがあります。最もわかりやすいのは「危機感」です。このままでは勝ち残れないという危機感がチーム形成への動機となり、「良い仕事がしたい」という人間の根源的欲求が、大きなきっかけになることがあります。最初は潜在意識であっても、何らかの機会に「良い仕事をしたい」という自己実現欲求に本人が気づく場合もあります。そして、硬直化した組織で受動的に仕事をするより、チームで積極的に仕事をする方が魅力的だと本人が考え始めたら、リーダーはその気持ちを汲み取って『チームビルディング』につなげましょう。
②必要性の認識
「生き残るには、今のままではダメだ」、「もっと良い仕事をするために、新しいアプローチで仕事をしたい」という思いが、チームの必要性を認識させます。また、「今の仕事はおもしろくない」というネガティブな不満も、必要性の認識につながります。
③コミュニケーション
チームの必要性が認識されると、必然的にコミュニケーションが活発化します。新たな挑戦にどう対応すればよいかを話し合う、自分には無い知見を持つ仲間にアドバイスを求める、役に立つ情報を共有するといった行動が、自然に行われるようになります。
④仕事の進め方の調整
メンバー間のコミュニケーションを通して、チームの課題の優先順位や役割分担が決まっていきます。激動する社会情勢では課題はリアルタイムで変化するため、こまめに仕事の進め方の調整を行うことが必要です。
⑤相互依存の行動
挑戦的な課題は、メンバー同士で協力しなければ克服が難しく、チーム内に協働の機会が増えます。それによって互いにサポートする気風が根づき、メンバー間に仲間へのリスペクトが生まれます。
⑥フィードバック
メンバーが協力して課題を克服できるよう、行動結果の良かった点、改善を要する点について、建設的なフィードバックを行います。フィードバックは仕事の進め方を進化させると同時に、個人の成長につながります。フィードバックはコミュニケーションでもあるので、再び③からサイクルが回ることになります。
チームにおける理想のリーダー像
『チームビルディング』を成功させる鍵は、チームのリーダーシップにあります。従来型組織のリーダーシップは、経験豊富なリーダーが答えを持っているか、最も答えに近い存在と見なされ、メンバーに命令してグループ全体の行動を統制し、すべての意思決定を一人で行うというイメージです。
しかし、チームは変容する不確実な状況下で、試行錯誤を繰り返しながら答えを見つけていく組織であるため、一般的なリーダーシップはうまく機能しません。チームに求められるリーダー像は次のようなイメージです。
リーダーは自分がすべての答えを持っていないことを認識しており、すべてのメンバーの協力がなければチームが成功しないことを確信している。そのためリーダーは、自分の限界を隠さずどんな事も率直に話し、メンバーの声をよく聞き、アイデアを共有することを推進する。
こうしたスタンスでリーダーシップをとるうちに、リーダーだけではなく、メンバー全員が、リーダーシップを発揮するようになります。この形態を「シェアードリーダーシップ(shared leadership/共有化されるリーダーシップ)」と呼びます。
リーダーシップを発揮する6つのポイント
①チームの目的、具体的な成果目標、仕事の進め方の関連を、メンバーに意識させる。
「意識させる」だけで「指示する」のではない点に注意が必要です。
②メンバーに、コミットメントと自信を持たせる
そのためにも、メンバーに対してポジティブなフィードバックをこまめに行います。
③スキルの多様性とレベルを強化する
メンバーが持つ多様なスキルを、互いに磨いて成長することを奨励しましょう。
④チーム外の人との関係を構築し、チームを取り巻く障害を事前に除去する
チームの活動をサポートしてくれる人的ネットワークを構築します。また、チームの活動を阻害しようとする人には、効果的なコミュニケーションで対処します。
⑤メンバーにチャンスを与える
責任はリーダーが、手柄はメンバーに。この基準で日々の活動を進め、メンバーに小さな成功体験を積むことで自信をもつよう働きかけます。
⑥手足を動かし、汗をかく
リーダーもチームの一人として、メンバーと同じように手足を動かし活動します。社内にこもって机上の空論を振りかざしても、誰もついてきません。
リーダーに期待される3つの仕事
チームのリーダーに求められる戦略的な役割は次の3点です。
①目的のフレーミング
フレーミングとは、ある対象や状況をどう認識するかという枠組みです。ここでは、目的をどのようにとらえ、どのような意味を見出すか、を指します。設定した目的そのものに良し悪しはありません。大事なのは、積極的な意味をいかに引き出すかという点。目的に積極的な意味を与えるのがリーダーの大事な役割なのです。また、意味を引き出せない目的は修正する必要があります。チームの目的そのものを見直すのもリーダーの役割です。
②心理的安全の確保
チームが機能し価値を創造するには、自由で創造的な意見交換が行われることが絶対的条件になります。メンバーの多様なものの見方や問題解決手法をフル活用できるよう、チーム内では心理的安全が確保される必要があります。心理的安全とは、意見やアイデア、感情などを気兼ねなく表せる雰囲気を指します。心理的安全があれば、発言は活発化し、意見を求めたり、自分のミスを認めたり、変わったアイデアも提案しやすくなり、さらに、厳しいフィードバックやタフな話し合いへの抵抗感も軽減します。
チームが結束するのは良いことですが、結束を優先するあまり、チーム内で異論を唱えることがタブー視されることがあります。それが集団思考です。集団思考とは、集団が合議によって意思決定をする際に、強い結束がマイナスに作用し、個人で意思決定をする場合よりも愚かで不合理な決定を行ってしまう傾向です。戦争は、集団思考の典型的事例と言えます。心理的安全は反対意見を歓迎する雰囲気を形成するので、集団思考に陥るリスクを下げることができます。
③失敗のフレーミング
難易度の高い課題に取り組んでいるチームにとって、失敗は避けられません。しかし、失敗に対してリーダーに期待される役割は、失敗を学びのチャンス、つまり、肥やしに変えるというフレーミングです。
効率を追求して成果を上げる従来型組織では、失敗は避けるべきとされます。一方、試行錯誤を通して学習しながら成果を追求するチームでは、失敗は必ずしもネガティブなものではありません。失敗をしないのは、チャレンジをしていないと同じだからです。
失敗のフレーミングは、失敗を「仮説と検証のサイクル」でとらえるのが有効です。失敗をネガティブなミスではなく、仮説の検証結果としてとらえます。「実行したが失敗した」ではなく、「仮説を立て、実行し、仮説を検証した」と位置づけます。最も大切なのは、より早く仮説を立て、実行し、結果を検証し、うまく行かなかったら仮説をバージョンアップして再度チャレンジすることです。この「仮説と検証のサイクル」をどれだけ早く回せるかで、成功の可能性が大きく変化します。
人が集まれば、自然にチームができるわけではありません。チームが機能するメカニズムが働かなければ、決して「良いチーム」にはなりません。鍵となるのは、「リーダーシップ」です。ここで求められるリーダーシップとは、従来の「タフで誰よりも能力が高く、先頭に立ってメンバーを引っ張る」というタイプではありません。メンバーと協力しながら、チームを育てる、そんなソフトなリーダーシップが求められています。『チームビルディング』によって、あなたのチームの実力を力強く開花させて下さい。
2022.10.07
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