進化の基盤となるチームビルディング 【前編】

  • ツイート
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

~すぐれたチームとはなにか~

「どうすれば強いチームになるのか」「今ひとつチームとしての一体感がない」など、チーム運営に悩んでいるリーダーは少なくありません。さらに言えば、「良いチームにしたい」という願望は、リーダーだけのものではありません。メンバーもまた、良いチームで成果を上げ、チームに貢献したいと思っています。

チームに関わる誰もが「良いチームにしたい」と思っているにもかかわらず、なかなか容易ではない。それが、『チームビルディング』の難しさなのかもしれません。今回は、どうすれば良いチームが育つのか、またチーム力を成果につなげられるのかという視点から、『チームビルディング』について考えてみたいと思います。


『チームビルディング』とは何か

ひとつのゴールに向かって、複数のメンバーが個々の能力を最大限に発揮しながら、一丸となって進んでいく――そのための効果的な組織づくりやチームをまとめる手法が、『チームビルディング』です。チームとは、「所属するすべてのメンバーが、困難な目標に向かって思いをひとつにし、その達成にコミットメントしている」集団のことです。

◎『チームビルディング』の目的と必要性

加速する業務の多様化・高度化に対して、ビジネスパーソンは柔軟かつスピーディーな対応を求められます。しかし、実際は自分の役割を果たすのに精一杯で、なかなか新たな試みやイノベーションに挑戦する余裕がないのではないでしょうか。

『チームビルディング』には、どのような状況下でも、組織が掲げるビジョンを念頭に置きながらメンバーが協力し合い、ひとつの目標に向かって組織風土を醸成するという目的があります。体験を共有することでメンバー間の信頼関係が深まり、コミュニケーション力・質問力・課題解決力といった個人の能力も向上します。

会社組織は、部署や職種によって役割分担されています。しかし、イノベーションを巻き起こすには、単なる組織単位のグループではなく、戦略的に成長と進化を生み出せるチームの存在が不可欠です。『チームビルディング』で「チーム力」を高めることができれば、メンバーも自分の能力を最大限に発揮することができます。

◎『チームビルディング』のメリット

コミュニケーションがスムーズなチームは、メンバーに心理的な余裕があり、チームワークも活性化します。メンバーが互いの業務を理解し、互いの成果を称賛し、喜びや達成感を共有することで、生産性や品質向上にも良い影響をもたらします。

『チームビルディング』では、あらゆる思考を巡らせ、意見や考えを持ち寄り、それを融合させる体験が増えるので、想像力やアイデアを存分に発揮できます。こうした組織風土が、ひとりの力では成し得ないイノベーションを実現するのです。

◆リオ五輪・陸上男子400mリレーに見る 『チームビルディング』の可能性◆

そもそも、「良いチーム」とは何でしょうか。スポーツの世界で有能なスター選手を集めたドリームチームが注目されることがありますが、そのチームが必ず勝つかと言えば、必ずしもそうではないことは皆さんもよくご存知でしょう。

2016年のリオデジャネイロオリンピック陸上男子400mリレーにおいて、日本新記録・アジア新記録で銀メダルを獲得した日本チームは、『チームビルディング』の好例です。「100m9秒台の選手が1人もいないのに銀メダル獲得」と世界中を驚かせ、アメリカなど強豪国に競り勝って銀メダルを獲得した日本チームは、大きく称賛されました。

日本チームの勝因は、「4人の強みと経験を生かしたオーダー(走順、編成)」と「世界屈指の高度なバトンパス技術」と分析されています。さらに、徹底した『チームビルディング』を通して引き出された「チームワーク」が、彼らの活躍を生みました。

つまり「良いチーム」とは、「メンバーの強みを最大限に生かす戦略とチームワークで、高次元の成果を生み出せる集団」と定義することができます。


良いチームに見られる5つの特徴

多くの会社組織は、部や課などの小グループがピラミッド型に構成されることで成り立っています。しかし、その小グループが必ずしも「チーム」だとは言えません。従来型組織における小グループは、決められたプロセスで効率的に成果を出すため、成果に直結するスキルを持った同じタイプの人材を中心に構成されます。しかし『チームビルディング』におけるチームは、さまざまなスキルや経験をもつ多様なタイプのメンバーです。柔軟な対応力や発想力を通じ、独自の価値を創造しながら成果を出すポテンシャルがあります。また、「良いチーム」には5つの特徴があります。

①チームの目的とそれに対するコミットメントが明確である

②チームの目的に連動した、具体的な成果を出している

③メンバー間に、助け合いの精神と共同責任の意識がある

④仕事の進め方が共有化されている

⑤さまざまなスキルを持つ多様なメンバーで構成されている

①チームの目的とそれに対するコミットメントが明確である

チームには、メンバーを動機付けする目的が不可欠です。明確な目的があればメンバーは日常の業務に意欲的に臨むことができ、全員で同じゴールをめざすことでチームとしてのアイデンティティを形成します。さらに「自分はこのチームの一員だ」というプライドをメンバーにもたらします。

一方で、さまざまなタイプが集えば、当然ながら意見の衝突も生じます。衝突は、価値創造という薬にも、チーム崩壊という毒にもなります。チーム内の衝突を建設的に乗り越えるには、チームの目的が共有され、コミットメント(責任ある約束・公約・確約)されている必要があります。目的はチームにとって最も重要な要素だけに「良いチーム」は目的の探索・形成・合意に多大な時間と労力を費やします。

②チームの目的に連動した、具体的な成果を出している

目標は、目的に至るまでの道しるべです。目的の難易度に応じて、チームがクリアすべき目標は挑戦的になります。ただし、目標はあくまでもメンバーが主体性をもって実現するもので、会社や上位組織が押し付けるノルマや、リーダーの個人的野望であってはなりません。また、目標は達成状況が客観的に判定できることが重要です。

③メンバー間に、助け合いの精神と共同責任の意識がある

掲げる目標が挑戦的な場合、担当する業務をこなすだけでは目標はなかなか達成できません。すると、メンバー同士で協働し、助け合うようになります。いかに協働すればよいか話し合ううちに協力関係が生まれ、互いを尊重するようになります。また、協働を通じて相手の成果の責任まで意識するようになると、メンバーはチームのあらゆる活動に関して、自分の意見を表明するようになります。「切磋琢磨」という言葉は、まさにこのような状態のことです。互いに責任を持つ風土が根づけば、「個人の失敗はない。チームとしての失敗があるだけだ」という、チームワークのメンタリティが形成されていきます。

④仕事の進め方が共有化されている

効果的なのは、仕事の進め方の共有化です。共有化の一例に、マニュアルや作業手順書があります。もちろん業務すべてをマニュアル化することは不可能ですが、マニュアルがあるからこそ、マニュアルでは対応できない案件を新たな課題として熟考できます。新たな課題をチームで克服すれば、マニュアルを進化させることができます。

業界や課題内容によって仕事の進め方は異なると思われがちですが、本質的には、「仮説と検証のサイクルを回す」という点で同じなのです。仮説を立て、実践し、仮説を検証し、仮説が棄却されたら仮説をバージョンアップして、また実践する。これが、チームで共有化すべき仕事の進め方です。

⑤さまざまなスキルを持つ多様なメンバーで構成されている

「多様なスキルや経験を持った人間の集団の方が、優秀だが同質的な人間の集団よりも、価値を創造することができる」というのが、ダイバーシティのメカニズム。だからこそ、チームは多様なタイプで構成される必要があります。あらかじめどのようなスキルが必要になるかは誰にもわかりませんが、「良いチーム」では案件に応じて、必要なスキルがチーム内で形成される「学習メカニズム」が働きます。

このように『チームビルディング』では①~⑤に従い、日頃からメンバーの能力を磨くことで価値を生み出します。「うちには人材がいない」というリーダーは、「私はチームビルディングを怠っています」と宣言しているのと同じです。


後編では、具体的にどのような点に注意しながら『チームビルディング』を進めていくか、また、チームリーダーに求められるポイントについて、話を進めていきます。

進化の基盤となるチームビルディング 【後編】へ続く→