テレアポ会社は信用できない?前編(営業代行奮闘記)

  • ツイート
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ビジネス社会の共通概念のひとつに、「クレームこそ最大のチャンス」という言葉があります。私たちにも、マイナスから始まったお客さまとのご縁から学んだ機会が、いくつもありました。今回は、その中からある実例をご紹介します。


「テレアポ業者は信用できない」。

始まりは、社長の辛辣なひと言だった。私たちは自らも、日々電話によるアポイント獲得を実践している。それが、自社のスキルを研き、お客さまに提供するサービスの精度を高め続ける、唯一無二の道だと知っているからだ。この日も牟田は、リストをもとに電話をかけ続けていた。そして、この言葉に出くわしたのだ。

 

「テレアポ業者は信用できない」。

電話口の社長の声は抑えた口調ながら、苛立っていた。聞けば2年前、VR(バーチャルリアリティ/仮想現実・AR(拡張現実)の技術開発を手がけるこの企業は、300万円の費用をかけ東京都内のテレアポ代行業者に業務を依頼した。だが契約期間中、一件もアポイントが取れなかったのだとか。設立以来15年間、紹介や問い合わせによる受託開発のみで事業を展開してきたため、これまで新規顧客を開拓することは一切なかった。しかし、独自の技術で開発したパッケージソフトがようやく完成したので、新たな事業戦略として初めて、新規販路の開拓に乗り出したという話であった。

実質的な営業は、福岡本社にいる社長と、東京の拠点に勤務する営業スタッフとの2名で進められていました。しかし、従来の業務と平行しながらの新規開拓営業は何かと効率が悪く、株主からも本格的な営業展開へのプレッシャーが次第に強くなってきたため、営業効率を上げる目的でアポイント代行を依頼したそうです。 

「テレアポ業者は信用できない」。

くり返される社長の言葉は、牟田の心に火をつけた。「社長、他社の仕事とは言え、同業者としてその結果はあまりにも申し訳なく、悔しい思いでいっぱいです。なぜ成果が出せなかったのか、理由をきちんと検証するチャンスを私にいただけませんか」。

粘りに粘って、牟田はなんとか会う機会を得た。3日後、牟田は上司とともに社長のもとを訪れ、まずは、社長の不満に耳を傾けた。そして、失敗の原因がどこにあったのかを明らかにするため、慎重にヒヤリングを進め、会社の現状や事業特性、アポイント代行を依頼した経緯など、先述した内容を聞き出したのだ。話を聞きながら、牟田はいくつかの問題点をさっそく把握した。それに対して、自社が提供可能なサービスも次々に思い浮かんだ。課題を持ち帰り、すぐに問題分析と企画提案の資料作成に取りかかった。

失敗の最大の原因は、アポインターの資質でした。聞けば、学生アルバイトとおぼしきアポインターが、とにかく「会って下さい」の一点張りで、何度もしつこくリスト先に電話を入れていました。断るとガチャンと電話を切る、舌打ちをするなど、電話マナーもひどいものだったとか。リスト先の企業からたびたび寄せられるクレーム対応で、業務に支障が出るほど時間を取られたということでした。「何のために依頼したのか、わからない」。本末転倒な展開に、社長はアポイント代行をまったく信用できなくなり、それが冒頭の辛辣なひと言につながったことがわかりました。

失敗の原因を分析して報告すると、社長の顔がたちまち曇った。苦々しい思いがよみがえったらしい。「社長、よろしければ、弊社がこれらの課題に対して何がご提供できるか、提案させて下さいませんか」。社長は憮然とした表情ながら、ゆっくりとうなずいた。そして、牟田の提案を社長は黙って聞いていたが、それでも疑念が残ったようだ。

「商談の素人に、アポイントがとれるわけがない」

という社長の言葉には、アポインターの資質がまったく違う点を伝えた。担当するアポインターは全員、営業実務3年以上の経験者で、テレホンアポイントの基礎研修を学んだ者だけが担当する。また、

「専門知識がないのに、アポイントなどとれないだろう」

という社長の懸念には、「平均1分30秒の時間で用件をシンプルに伝え、相手の承認を得て、アポイントを設定する」という、テレホンアポイント本来の手順を明確にした上で、「相手の心に届く言葉(用件)を引き出し、的確に伝える力が、当社の持ち味です」と毅然と答えた。そして、そのために、より具体的な商品特性や技術内容のヒヤリングを丁寧に進めた。

ここで得た情報をもとに、独自のノウハウを反映させたトークスクリプト(営業トーク)を作成する。それを営業経験のあるアポインターが頭に叩き込み、幾度ものロールプレイングで検証した上で、業務をスタートする。「うちのアポインターは、プロ集団だ」という自負が、牟田にはあった。これまでに蓄積したノウハウを集約したサービスを提供することで、社長の予想を超える成果をもたらそうと、心に決めた。

当初は、社長の怒りや悔しさ、裏切られた思いを強く感じましたが、何度も足を運ぶ、うちに、かたくなな心が次第に変化していく様子が、表情から見て取れました。とは言え、「新規開拓が進まない、アポイントを取る暇がない、困っている」という未解決の課題は残ったまま。私は、自社の優位性を語ってビジネスの話を進める以上に大切なのは、社長に心を開いていただくことだと思い、自分が為すべきことを考え、丁寧に仕事を進めました。それは「この会社(アソウ)なら、この男なら、私を裏切らないだろう」と信用していただくまでの、人と人との信頼関係づくりそのものでした。

やがて、社長から具体的な要望や相談が出るようになった。300万円もの費用を無駄にした経験から、判断が慎重になるのは当然だ。「もう失敗はしたくない。費用対効果がわかりやすい契約はできないか」という要望に対して、牟田は上司と相談し、「成果報酬型プラン」を提案した。これは、それまでの「従量課金型プラン」とは別の、新たなプランである。

成功報酬型プラン」は、基本料金を低額に抑え、アポイントの設定件数に応じてプラスアルファの費用を加算していくものです。従来の「従量課金型プラン」は、アポイント代行の活用に慣れたお客さま向けの料金体系であるのに対して、「成功報酬型プラン」が、「コストを抑えたい」「リスクを軽減したい」というお客さま向けに、アポイント代行を導入するにあたってのハードルを下げる点が特徴と言えます。当社としても、業種業態を問わずさまざまな企業にアポイント代行の利便性や価値を認識していただき、新規導入企業を増やすことで市場を拡大する必要性を感じていました。今回の案件は、当社にとっても新たなサービスメニューの開拓という点で、大きな意味を持つものでした。

「テレアポ業者は信用できない」という言葉を聞いた日から、1カ月。社長はついに契約書にサインをした。新たな料金プランに基づいたきめ細かな提案は、社長の納得する内容であった。そして、担当・牟田が見せた、一連のプロセスにおける懸命な取り組み姿勢が、社長の心を動かした。「ありがとうございます。ようやくスタートラインに立てました。これからが本番です。期待にお応えする結果を必ずお持ちします」牟田は引き締まった表情で社長に告げた。

後編につづく