テレアポ会社は信用できない?後編(営業代行奮闘記)
【前編のあらすじ】 (前編はこちら)
300万円の費用をかけて依頼したアポイント代行で失敗した経験を持つ社長には、当初、アポイント代行業者への不信感しかありませんでした。リストに沿って偶然かけた電話でそのことを知った営業・牟田は、懸命なアプローチによって、課題解決に向けたチャレンジの機会を得ました。
「世の中を、もっと便利で、豊かで、楽しくしたい」。
社長の原点にある思いに、牟田は強い共感を覚えた。今回、独自の技術力を駆使して開発したデジタルサイネージのパッケージソフトは、社長の思いを具現化する画期的な製品であった。「人が多く集まる空間で、この技術はさまざまな楽しさを演出する」というイメージから、東京・福岡エリアの商業施設向けにアプローチをする。
牟田は、「平均1分30秒の時間で用件をシンプルに伝え、相手の承認を得て、アポイントを設定する」というテレホンアポイントの手順に従って、伝えるべきメッセージを端的にまとめたトークスクリプト(営業トーク)を作成した。そのトークを営業経験3年以上の有能なアポインター達が頭に叩き込み、ロールプレイングで検証を重ねながらブラッシュアップしていく。そしていよいよ、業務がスタートした。
牟田がアポインターの営業経験にこだわる理由は、お客さまにとって一番の目的である「成約」に、焦点をあてているからだ。アポイントの設定は、「成約」に至るプロセスのひとつであり、あくまでも商談のきっかけにすぎない。しかし、アポイントがなければ、商談は何も始まらない。そのため、アポインターが自分の役割の意義と重要性を正しく理解することを大切にしている。そして、「成約」への最初の大事な場面だからこそ、プロフェッショナルとしてのスキルやスタンスが活きることを、彼らに実感させているのだ。こうしてアポインターは、自分が営業の資質を身につけたプロフェッショナルであるという自負をもって能力を高め、自分自身を磨いていく。
このように、万全の体制のもと強い自負をもって進めた取り組みは、大きな成果につながった。結果として牟田のチームは、東京・福岡エリアの大型商業施設348件にアプローチし、30件のアポイント設定に成功した。その確率は、実に8,6%。通常の設定率4,6%(平均)と比較しても、約2倍の高い確率であった。もちろん4,6%という平均実績は、同業他社の中でも非常に高い確率である。「営業経験3年以上のアポインター」という人材へのこだわりが、確かな実績につながったことは言うまでもない。
「アポイント設定30件」という成果は、社長を驚かせた。かつて、300万円の費用をかけて1件も取れなかったアポイントが、はるかに少額の費用で予想以上の成果を生み出したことに、ある意味でカルチャーショックを受けたようだった。そして、「テレアポ業者は信用できない」という言葉を社長は即座に撤回し、笑顔を見せた。
その後、社長は営業担当者とともに、30件のアポイントに対するアプローチを開始した。相手先企業と話す中で、予想以上に市場はVR・ARという新技術に関心をもっていることがわかった。このアプローチは、商談以上にマーケティング面で貴重な機会となった。
「自分たちがおもしろいと思ったことを形にする作り手主導の開発スタンスに変わりはないが、使い手側の視点やニーズを知ることで開発に深みが出て、より高度な開発が可能になる」と、新たな市場との出会いを喜んだ。
一方で、企業としての課題も浮き彫りになった。技術ベンチャー企業として設立して15年、紹介や問い合わせによるシステム開発が業務の大半であったため、営業業務に関わる者が社長と担当者一人だけという点は先述した。社長はベンチャー企業のリーダーとして注目され、スポークスマンとしての役割を担う機会が多いため、営業活動に費やす時間をなかなか確保できなかった。その結果、アポイントに対するフォローのタイミングが合わず、商談のチャンスを逃すことが続いた。そこへ、全社をあげて開発に取り組む大きな開発案件が入ったのだ。
「大きな案件受注は喜ばしいことだが、そちらを優先することで営業活動がペースダウンしたのは事実。とは言え、アポイント代行の価値、営業体制の整備という当社にとって重要な課題が明らかになった点は大きな収穫」と、アポイント代行の成果を十二分に評価した上で、社長は課題解決に向けた新たな展開に着手した。
「テレアポ業者は信用できない」
この言葉から始まった牟田と社長の出会いは、30件のアポイント設定という成果とともに、より良い企業へ進化するための変革のチャンスをもたらした。
「たかがテレアポ、されどテレアポ」
営業プロフェッショナル企業としての、高度なスキルとプライド(誇り)。お客さまの予想を越える「感動」を体現するため、牟田は今日も真摯な取り組みを続けている。