『“弱者逆転の法則”ランチェスター戦略入門シリーズ⑧』

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【VOL8】 市場参入戦略のポイント①

ランチェスター戦略の新規市場参入戦略の考え方に「グー・パー・チョキ理論」という考え方があります。

これは市場参入時期に合わせ、戦略を変えていくという考え方ですが、その戦略イメージをわかりやすくし表現したのが「グー・パー・チョキ理論」という考え方です。

今回はこちらについて解説して参りましょう。


●市場(製品)ライフサイクルとグー・パー・チョキ理論

人の一生と同じように製品が世に出て消えるまでにはライフサイクルというものがあります。

一般的に導入期・成長期・成熟期・飽和期・衰退期の5期に区分され、その時期ごとに戦略を転換していかなければなりません。

市場がまだ出来上がっていない、導入期や市場が拡大している成長期、あるいは市場がシュリンクしていく衰退期など、その時期によって当然参入の仕方は変わってくることはイメージ出来るかと思います。

では、どのように参入していくのか?

これをランチェスター戦略では、ジャンケンに例えて、その時期ごとに「グーの戦略」・「パーの戦略」・「チョキの戦略」というように表現しています。

まず”導入期”は、「グーの戦略」です。

これは、「握りこぶしを鋭く突き刺すが如く参入せよ」という意味です。

新規で市場に参入する際は、大きく風呂敷を広げず、まずは小さくても良いので確実に市場を押さえるということを意識します。

 

「グーの戦略」に求められることは、製品の差別化と製品ラインや販売地域や販売チャネルの集中です。

いきなりヒットするということは稀で、一般に伸びは緩やかです。

またこの段階では、売れる切り口を模索し、色々と試してみることも求められます。

ある意味テスト期間として捉え、トライ&エラーを繰り返し、ブラッシュアップしていきましょう。

この時期に原則としてもう1つ付け加えておくと、基本的にはエンドユーザーへの直接販売、あるいは極力販路を短くし(卸や代理店等中間業者をなくす)、自力で売り切る力をつけることも心掛けておきましょう。

 

やがて、他社が参入し、競争が本格化すれば”成長期”が訪れます。

成長期は、市場自体が拡大していき、競合の参入も増え競争状況も激化します。

その中でいかにパイをとっていくかという陣取り合戦ともいえるでしょう。

したがって、この時期の戦略は、手のひらを“パーッ”と広げるが如く、戦線を広げていきます。

このイメージはまさに「パーの戦略」です。

握っていたこぶしを「パー」のように広げていくとは、商品ライン・販売チャネル・顧客層の拡大などが求められます。つまり、強者の戦略で戦うのが原則となります。

 

「パー」の戦略に求められることは、スピード感や量的要素等で他を圧倒することです。

圧倒的な広告力、流通影響力、販売力などがあれば、後発でもカテゴリー代表ブランドのイメージを形成することが可能です。

資金力の乏しい弱者であってもこの時期は投資における勝負所ともいえるでしょう。

但し、心がけることは、顧客にブランドイメージを刷り込み、マインドシェアにしっかり食い込んでいくことに対する投資を意識することをお勧めします。

 

その後、伸び率が鈍化してくれば成長していても成熟とみなし、戦略を転換しなくてはなりません。

その際は勝てる分野・領域に集中します。

“パーッ”と広がった戦線を“チョキッ”とカットするが如く生産性を求めます。

この場合は、もはや成長が見込めない、伸びない市場を奪い合うので、ゼロサムゲームの“勝負型”の競争状況となります。つまり、勝ち組負け組がきっちり分かれる状況が出来上がります。

気を付けたいのは、この時に売上・利益が上がっていないにもかかわらず、いつまでもズルズルとリソースを投下し続けることです。

スパッと撤退することは勇気がいることですが、この時期に求められることはベターなタイミングでの意思決定です。

この時の表現をスパッとカットするイメージから「チョキの戦略」という表現を使っています。

 

さて、成熟期になると利益は増えますが、利益のピークは売上のピークより前に来ます。

したがって、商品、客層、顧客、地域、チャネルの売れ行きがバラつきますくので、選択と集中を心がけてください。

近年、機能性や品質での差はつきにくく、利便性や付加サービスで差別化することが求められています。

それでも差がつかなければ値崩れがはじまり、利益は減り始めます。

この時が、「チョキ」への戦略転換期となるでしょう。

まずは、利益確保を重視し、撤退時期を見誤らない様、デットラインと目標値を明確にし社内共有すること。

また、確保した利益は「明日の担い手」育成の原資に割り当てましょう。

飽和期以降も直接販売を重視することも忘れないでください。

 

以上が、ランチェスター戦略における「グー・パー・チョキ理論」です。

「グー・チョキ・パー」ではないことがお分かり頂けたかと思います。

 

大切なのは、導入期・成長期・成熟期等・・・つまり市場ライフサイクル時期によって、取るべき戦略が異なるということです。

今どんな「時期」を戦っているのか?

それを知り、その「時」によって戦い方も変わってくるということを知っておいて下さい。

 

●大企業が新規事業で陥りやすい罠  

大企業の新規事業は失敗するケース多いといわれています。

その理由としては、新規の市場へ参入する際もどうしても大手意識が災いしてしまうことが挙げられるでしょう。

本来新規での市場参入は、強者であろうと弱者の戦略を取らなくてはなりません。にも拘らず、強者の戦略で挑んでしまうパターンは後を絶ちません。

心情はわからなくも有りませんが、他分野へ進出する際は大手であってもそこでは弱者です。

その切り替えが出来るか出来ないかで明暗はクッキリ分かれます。

市場参入時は弱者の戦略。このことは、頭に叩き込んでおいて下さい。

●市場参入も「5W1H」を意識しましょう

さて、最後にもう1つだけ付け加えておきます。

新規に市場に参入する際は必ず「5W1H」で検討し、またその「5W1H」を社内全員で共有しておきましょう。

1.WHY(なぜ、それをやるのか?):市場参入する意義を明確にしておきましょう。

2.WHAT(何をするのか?):どんな形で参入するのか?差別化や勝てる要素は何か?

3.WHERE(どこに参入するのか?):どの市場(または領域等)に参入するのか?

4.WHO(狙いは誰なのか?敵は誰なのか?):ターゲットとする顧客は誰か?どんな競合がいるのか?

5.WHEN(いつ参入?どんな市場時期?):参入のタイミングとライフサイクル時期は?

6.HOW(どのように市場に参入するのか?):具体的な4P戦略や営業戦略は?


名和田 竜(なわた りょう)/プロフィール

NPOランチェスター協会常務理事 副研修部長(認定インストラクター)
相模女子大学非常勤講師、 澤田経営道場講師兼選考委員

ランチェスター戦略学会役員 リレーションステージLLP(代表)

広告代理店にて、営業・プランナーとして数多くの大手メーカー及び
流通企業等の成功企画を手掛ける。
雑誌・TVなどにも取り上げられた企画も多数。
現在はコンサルティング及び研修講師をはじめ、
執筆・講演など幅広く活躍中。相模女子大学では
「メディア産業論」「e-ビジネス論」の講義を担当。
ライフワークである「戦国武将・幕末維新に学ぶシリーズ」も人気講座として定着。
公益財団法人澤田経営道場のカリキュラム及び教育全般も担当。
その他、マーケティングカレッジ等でもレギュラー講師を務める。

●主な著書等

『ジャパネットたかたすごい戦略』(あさ出版)
『しくじり企業も復活する7つの大原則』(ビジネス社)
『まんがで身につく!ランチェスター戦略』(あさ出版)
他多数

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