『“弱者逆転の法則”ランチェスター戦略入門シリーズ⑥』

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【VOL6】 弱者の戦略と強者の戦略の違い

ランチェスター戦略では、弱者には弱者の取るべき戦略が有り、強者には強者の取るべき戦略が有ると明確に示しています。そして、その戦い方は180度異なります。

ではどのように違うのでしょうか?今回は、弱者の戦略と強者の戦略の違いについて解説していきたいと思います。


●弱者の「差別化戦略」・強者の「ミート戦略」

まず、「弱者」の基本となる戦略は「差別化戦略」です。

これは皆さんよく聞く言葉かと思います。

「他と同じことはせず、違うことをやりなさい・・・。」

このようなアドバイスを受けたことは一度や二度ではないのではないでしょうか?

意味としては、ランチェスター戦略においても変わりありません。

 

また、「強者」であればその基本となる戦略は「ミート戦略」となります。

「ミート戦略」については一言付け加えておくと、これは、「同質化戦略」あるいは「模倣戦略」ということを意味します。

つまり、「強者」は「弱者」が取ってきた戦略に対し、同じ戦略を取るということが、その戦略セオリーとなるわけです。

「真似る」ことで、相手の「差別化」を「差別化」で無くしてしまう、「同質化」することで、そのインパクトを薄める、あるいは無くしてしまう・・・。

いってみれば、後出しジャンケンのようなものです。これも1つの戦略というわけです。

●弱者・強者の定義

では、「弱者」「強者」の定義とは何なのか?

何をもって「弱者」なのか?あるいは、「強者」なのか?

 

会社の規模が小さければ弱者? 大きければ強者?

売上が大きければ強者? 小さければ弱者?

大手は強者、中小零細企業は弱者?

 

・・・そうでは有りません。

ランチェスター戦略では、「弱者」・「強者」にも明確な定義付けをしております。

まず「強者」の定義ですが、ランチェスター戦略では、ビジネス市場において市場シェア1位の企業のみを「強者」と定義し、それ以下は2位であろうが、3位であろうが皆「弱者」と定義しています。

(店舗型ビジネスの場合、地域一番店のみを強者。それ以下は全て弱者)

 

例えばビール市場を見ていきますと、業界全体のシェア1位はアサヒビールとなりますので、この市場の強者はアサヒビールということになります。

2位はキリンビールです。キリンとアサヒは僅差では有りますが、立場的には2位のキリンは弱者となります。もちろんそれ以下のサントリー、サッポロも弱者となります。

 

但し、市場シェア1位というのは、必ずしも業界シェア1位だとか日本全国シェア1位である必要は有りません。

では、何を持って判断するのか?

その判断基準は、市場全体の経営規模ではなく、自社がビジネスをしている市場の局面ごとで判断するということになります。

 

つまり、市場の局面ごととは、自社と競合他社との「競争の各局面」という意味です。

これは、自社がビジネスをしている市場全体だけを見ていくということではなく、部分的な局面も含め見ていくということが重要になります。

 

いくつか、具体例を挙げてみてましましょう。

まず、コンビニ業界全体における市場という観点で観ていけば、日本全国という視点で観なくてはなりません。その時の強者は、全国の売上規模、店舗数など圧倒的な強さを誇り、1位に君臨しているセブンイレブンということになります。

しかし、これは日本全国という市場で観た場合を意味します。

例えば、これを地域ごとに観ていくとどうでしょうか?

北海道という局地的な局面を見てみると、これはセイコーマートという地場のコンビニが店舗数などで、1位となっています。

 

地域という括りだけではなく、単品カテゴリーという視点でも同じことが言えます。

例えば、ソフトドリンクという市場全体で見ると、日本コカコーラが業界シェアNO.1ですが、緑茶という単品カテゴリー(部分的な局面)で見ると、これは伊藤園の「お~いお茶」が1位となります。

したがって、この局面で判断すると、強者は日本コカコーラではなく、伊藤園ということになります。

では、ウーロン茶ではどうでしょう?

こちらはサントリーが1位です。したがって、サントリーが強者ということになります。

 

それでは、先ほどのビール市場に戻って観てみましょう。

全体ではアサヒビール。

局地的に観ていくと・・・北海道では、サッポロビールが強者。沖縄では、オリオンビールが強者となっています。

また、カテゴリーに目を向けると・・・プレミアム領域では、サントリーのプレミアムモルツが強者となります。

そして、発泡酒、第3のビールでは、それぞれキリンの「淡麗」「のど越し生」が強者となります。

 

いかがでしょう? おわかりになりましたか?

このように、市場を「全体」という大きな括りだけで観るのではなく、「競合局面」という「部分」の視点を持って観ていくことが求められます。

 

つまり、ランチェスター戦略が定義する「弱者」「強者」は、市場の競合局面ごとにその立場も入れ替わるというわけです。

ですから必ずしも大企業、大手企業が「強者」とは限りません。

商品、地域、流通、顧客によって、「弱者」・「強者」の立場は当然変わってきます。

したがって、シェアという概念も業界、全国といったシェアだけが基準ではないという発想を持つことが必須なのです。

 

ここでシェアの意味を今一度確認しておきたいと思います。

まず、市場シェア(市場占拠率・占有率)というのは、ある特定の市場全体の総売上高を市場規模と捉え、その市場規模を分母にして、各社の売上をそれぞれ分子としたものを指します。

つまり、同じフィールドでビジネスを展開する競合も含めた売上高を全て足したものが分母となり、その中での自社の売上を分子として表したものです。

競争の結果得られる市場の中での自社と競合との地位関係といっても良いでしょう。

 

※ちなみにシェアに関しては売上だけとは限らず、生産台数、出荷数、販売台数、契約者数など業界やその目的によっても異なりますのでご注意ください。

 

いずれにせよ、自社がビジネスをしている市場という「パイ」を自社がどれだけ取れているか?

これを把握しておかなくてはなりません。

●まとめると・・・

ランチェスター戦略が定義する「弱者」「強者」は、市場の競合局面ごとにその立場も入れ替わります。

したがって、必ずしも大企業、大手企業が「強者」とは限りません。

商品、地域、流通、顧客によって、「弱者」・「強者」の立場は当然変わってきます。

つまり、シェアという概念も業界、全国といったシェアだけが基準ではないという発想を持つことが必須なのです。

 

市場を「全体」という大きな括りだけで観るのではなく、「競合局面」という「部分」の視点を持って見ていくことを忘れないで下さい。


名和田 竜(なわた りょう)/プロフィール

NPOランチェスター協会常務理事 副研修部長(認定インストラクター)
相模女子大学非常勤講師、 澤田経営道場講師兼選考委員

ランチェスター戦略学会役員 リレーションステージLLP(代表)

広告代理店にて、営業・プランナーとして数多くの大手メーカー及び
流通企業等の成功企画を手掛ける。
雑誌・TVなどにも取り上げられた企画も多数。
現在はコンサルティング及び研修講師をはじめ、
執筆・講演など幅広く活躍中。相模女子大学では
「メディア産業論」「e-ビジネス論」の講義を担当。
ライフワークである「戦国武将・幕末維新に学ぶシリーズ」も人気講座として定着。
公益財団法人澤田経営道場のカリキュラム及び教育全般も担当。
その他、マーケティングカレッジ等でもレギュラー講師を務める。

●主な著書等

『ジャパネットたかたすごい戦略』(あさ出版)
『しくじり企業も復活する7つの大原則』(ビジネス社)
『まんがで身につく!ランチェスター戦略』(あさ出版)
他多数

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