『“弱者逆転の法則”ランチェスター戦略入門シリーズ⑤』
【VOL5】 射程距離理論と5つの市場競争パターン
前回は、ランチェスター戦略のシェア理論、7つのシンボル目標数値について解説しましたが、今回は射程距離理論と市場シェアに見る5つの競争パターンについて解説したいと思います。
●射程距離理論とは?
ランチェスター戦略のシェア理論の中には、射程距離理論という考え方があります。
上限目標値「73.9%」と下限目標値「26.1%」を足すと100%になります。シェアを2社間で争っていたとすると、一方が「73.9%」のシェアを抑えた時、もう一方のシェアは、「26.1%」になります。
そのシェアの比は「3:1」となります。
「73.9%」という数値は、シェアの上限目標数値。すなわち完全決着のゴールです。
つまり、2社間の勝敗の分岐点は、「3」という数字がポイントとなるというわけです。
これは、3対1以上に力関係が開いた場合、完全に決着が付いてしまうことを意味します。
このことを「射程距離理論」いいます。
但し、3倍という数字が当てはまるのは、2社間競合と単品の顧客内シェアの場合のみとなります。
それ以外は、ランチェスター第二法則が適用される状況下となるので、兵力数が2乗倍に作用します。
よって、2乗して3倍となる√3倍(約1.7倍)を射程距離とすることを覚えておいて下さい。
まとめると、2社間の一騎討ち型の戦いや単品の客内シェアの場合(局地戦/第一法則型)は、相手とのシェア差を「3倍」つければ逆転困難な安全圏ということになります。
但し、3社以上が競合する広域戦・確率戦(全国区・地域別・商品別・販路別等・・・通常のビジネスはほぼこちらが適用)は、第二法則型が適用されますので、兵力数が2乗に作用します。
したがって、2乗して3倍となる√3倍(=約1.7倍)が射程距離ということになります。
その逆に、射程距離が√3倍未満であれば十分逆転が可能ということになります。
このようにシェアというのは、単純に自社の立ち居地を把握するだけではなく、自社よりも1ランク上の企業との差、または1ランク下の企業との差がどの程度なのかを「射程距離理論」を用いることで認識することが重要となります。
その際、逆転可能なシェア差なのか?(射程距離「圏内」)
それともほぼ無理なシェア差なのか?(射程距離「圏外」)
このことをしっかり認識することが重要となります。これによって、目標数値がより明確になり、次の打ち手も見えてきます。
ただ、ここで注意しておきたいことが1つ有ります。
「射程距離理論」は、1位と2位の差だけではなく、2位、3位などの差も含め、全ての競合関係に適用されます。
シンボル目標数値の場合、業界や競合状況によって使用しにくい場合がありますが、射程距離理論の場合は、自社との上位又は下位企業とのシェア差に適用できますので、ランチェスター戦略の実践においては、特にこちらを重要視しています。
シェアを知ることは、自社の立ち位置を知るのみならず、他社とのシェア差間を「射程距離圏内」なのか?「圏外」なのか?これを認識するということでもあるわけです。
●5つの競争パターン
1つ目が、「分散型」市場。
これは、1位の企業が下限目標値の「26.1%」以下で、競合各社間のシェア差が√3倍以内。
つまり、突出した企業が無い、ドングリの背比べ状態をいいます。
2つ目が、「3強型」市場。
1位、2位、3位のシェアを足したものが「73.9%」以上を占め、かつ1位が2位と3位を足したシェア以下であり、さらに1~3位の各社間は√3倍以内の状況をいいます。
いってみれば、勝ち組み3社とその他負け組の状況です。
3つ目が、「2強型」市場。
1位と2位の企業を足したシェアが、「73.9%」を超え、且つ1位と2位のシェア差が √3以内。
この場合は、2強状態とその他負け組みの状況を指します。
4つ目が、「1人勝ち型」市場。
1位の企業が「41.7%」を超え、1位と2位の企業とのシェア差が √3倍以上。
こちらは、シェア状況が「41.7%」を超えているナンバーワン企業とその他負け組の状態をいいます。
5つ目が、「独占型」市場。
こちらが最後となりますね。1位の企業が「73.9%」を超えている状態にある市場を言います。
1位以外は、基本的には皆負け組み状態といえます。
仮に分散型から市場状況がスタートした場合、何の戦略もなしに戦っていると、やがて自然淘汰が始まります。そうなると時間の経過と共に「1~5」のパターンへと推移していきます。
つまり、勝ち組が減り、負け組が増えていく形になります。
したがって、シェアを把握する場合は、現状の競争パターンも認識し、次のパターンへ移行することを前提に自社の目標順位を設定する必要性が有るわけです。
「分散型」であれば、いずれ「3強型」になることを想定し、上位3位以内に入っておくことが求められます。
この場合、4位だと負け組になってしまいます。
「2強型」であれば上位2位に入っていなければ、やはり負け組みになってしまいます。
自社と他社のシェアを知ると、自ずと自社は何位以内に入るべきかが明確になるわけです。
同時に攻撃目標もどこに定めるかも見えてくるというわけです。
自社と上位企業・下位企業とのシェア差間を把握し、上との差が射程距離圏内であれば、
十分上位を狙っていくことも可能ですが、まずは、下位との差を見ておく必要が有ります。
やはり、下との差が、圏外(√3倍差)まで引き離せていないのであれば、こことの差を引き離しておく必要があります。
しかし、多くの企業は、射程距離圏外であっても、上位企業と勝負してしまいがちです。
人間の心理からいっても、下よりも上を目指したいので、そちらに目がいくのは当然ではありますが、その際にやはり、下位とのシェア差が十分でなければ、下位企業から足元をすくわれてしまうという事態も有り得るわけです。
したがって、まずは下位とのシェア差間はどの程度なのか?
まずはそこから見ていきましょう。
「攻撃目標」(自社よりも下位の企業)と「競争目標」(自社よりも上位の企業)は、切り離して考えていくということです。
シェアについては、目標数値の認識とシェア差間ここをしっかり把握することを心掛けましょう。
NPOランチェスター協会常務理事 副研修部長(認定インストラクター)
相模女子大学非常勤講師、 澤田経営道場講師兼選考委員
ランチェスター戦略学会役員 リレーションステージLLP(代表)
広告代理店にて、営業・プランナーとして数多くの大手メーカー及び
流通企業等の成功企画を手掛ける。
雑誌・TVなどにも取り上げられた企画も多数。
現在はコンサルティング及び研修講師をはじめ、
執筆・講演など幅広く活躍中。相模女子大学では
「メディア産業論」「e-ビジネス論」の講義を担当。
ライフワークである「戦国武将・幕末維新に学ぶシリーズ」も人気講座として定着。
公益財団法人澤田経営道場のカリキュラム及び教育全般も担当。
その他、マーケティングカレッジ等でもレギュラー講師を務める。
●主な著書等
『ジャパネットたかたすごい戦略』(あさ出版)
『しくじり企業も復活する7つの大原則』(ビジネス社)
『まんがで身につく!ランチェスター戦略』(あさ出版)
他多数
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2020.03.04
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