『“弱者逆転の法則”ランチェスター戦略入門シリーズ④』

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【VOL4】 シェア理論と7つのシンボル数値

ランチェスター戦略では、シェアというものを非常に重要視しています。

では、市場においてシェアは、どの程度取ることが望ましいか?

100%? 90%? 80%? ・・・・・実は、こうしたシェアの目標設定において、ランチェスター戦略では明確な数値が存在します。今回は、シェアの目標数値について解説していきましょう。


●シェアのゴールは何%?

ランチェスター戦略を実践する上で欠かせないのが、具体的なシェアの目標数値の設定です。

その為には、短期や中長期の明確なシェア目標値を設定し、それを実践していくことが求められます。

また、その達成度が成果指標ともいえます。

 

さて、その基準値となる数値は、「73.9%」、「41.7%」、「26.1%」の3つとなります。

これをシェア3大目標数値と言います。

実務の上では、「75%」「40%」「25%」と覚えてしまっても問題は有りません。

このシェアに具体的な数値目標を設定しているのは、世界広しと言えどもランチェスター戦略だけとなります。

 

この数値は、クープマンを始めとするOR(オペレーションズリサーチ/米国作戦研究班)が導き出した「クープマンモデル」を故・田岡信氏と故・斧田太公望氏が、さらに解析し導き出したものです。(田岡・斧田シェア理論)

 

一部ではクープマンが導き出した「クープマン目標数値」等とも呼ばれ、クープマンが導き出したものと誤解も有るようですが、クープマンらはあくまでも戦争時におけるモデル式(方程式)を導き出したのであって、ビジネス及び市場シェアに関する数値は全て田岡、斧田両氏によるものということも付け加えさせて頂きます。

それでは、それぞれの数字の持つ意味を詳しくみていきましょう。

●シェアの3大目標数値

◎上限目標数値:「73.9%」

ランチェスター戦略では、シェアの最終目標数値を約75%と定めています。

100%では有りません。

その市場において、75%のシェアを取ってしまえば勝負は終了します。

100%とは、完全独占状態ですので、実は危険な常態でも有ります。

健全な市場というのは、常に競争がある状況をいいます。

1社独占は市場の成長も見込めませんし、活性化も期待できません。

したがって、複数の競争状況がある中での75%という数字が最も安定した独占状況といえるわけです。

 

◎安定目標値:「41.7%」

但し、通常ビジネスで70%を超えるシェアという数字は早々取れるのもでは有りません。

したがって、「独走の条件」といわれる数値である「40%」をシェア目標としている企業が多いといいます。

実際、この数値を超えると大抵は1位になれます。しかも、2位との差も開いた1位となるパターンが多いので、その地位は安定します。

ランチェスター戦略でも最も重要視するのが、この市場シェア約40%という数値です。

 

ちなみに、米国のGE(ゼネラル・エレクトリック)社は、1965年から20年間に渡って取ってきたポートフォリオ戦略では、「競争相手が40%以上、自社が7%以下のシェアしかない場合商品は撤退すべし」としていました。

日本でもトヨタや日本生命などは、40%を市場シェア率の絶対目標としていたことも知る人ぞ知る話です。

実際、1位企業の市場シェアが41.7%を上回ると、国内で58.8%、世界では100%の確率でNO.1になっているということも統計データから見ることが出来ます。(日経シェア調査から福永雅文氏による分析)

 

◎下限目標値:「26.1%」

 この数値は、トップの地位に立つことができる強者の最低条件を意味します。

もちろん、市場によって20%や10%程度でも1位になるケースはあります。

但し、その場合多くは2位以下とのシェア差は僅差で有るといえます。

25%でも、まだまだ安定的な地位とは言えず、いつ逆転されるかわからない状態ではありますが、実際統計データを見ると、25%程度のシェアを取るとシェア1位であるケースは多く、2位以下であることは少ないといえます。

したがって、「26.1%」は強者として取りたい最低条件のシェアとなるわけです。

 

余談ですが、これは後にコロンビア大学のグリーンワルド氏達によっても論じられています。

「20~25%のマーケットシェアを取らないと、まともにその市場では戦えない」

(「ハーバード・ビジネスレビュー」2005年9月号)

詳細は割愛しますが、田岡氏はこれより30年近く前にこのことを世に発表しているということに驚かされます。

 

以上が、田岡・斧田両氏により導き出された「シェア3大目標数値」となります。

それ以下の目安となる目標数値についても簡単に挙げておきましょう。

●目安となる「4つの目標数値」

3大目標数値以下の目安となる数値は4つです。

「19.3%」、「10.9%」、「6.8%」、「2.8%」

まだ「26.1%」には及ばない企業であれば、まずは立ち位置を把握し、この4つの目標数値から、自社が目指すべきシェア数値を設定していきます。

◎上位目標値:「19.3%」

約19%というシェアは、ドングリの背比べ状態の中で上位グループに入れたことを示す数値です。

弱者の中の強者といった位置づけです。

したがって、弱者の当面の目標数値といえるでしょう。

※導いた計算式⇒(26.1%x73.9%)

◎影響目標値:「10.9%」

約11%というシェアは、その市場全体に対し影響を与える存在になることを意味します。

「10%足がかり」などとも言われています。

この辺りから、その存在を意識され、強者や上位競合との本格的な競争が始まるのでしっかり覚えておきましょう。

また、シェアと利益の相関性という視点で見るとシェア10%未満は、シェアと利益は相関しないが、10%を超えると相関関係が色濃く出てくるという研究結果も出ています。ある意味、赤字と黒字の分岐点とも言えるわけですね。非常に重要視したい数値といえるでしょう。

※導いた計算式⇒(26.1%×41.7%)

◎存在目標値:「6.8%」

約7%のシェア率というのは、市場へ対しての影響力は有りません。

競合にようやく存在を認められる程度に過ぎないといえるでしょう。

先に挙げたGEなどは、7%未満を撤退の基準として使用していました。

市場特性や期間を考慮しつつも撤退の1つの基準として捉えてよい数値といえます。

※導いた計算式⇒(26.1%×26.1%)

◎拠点目標値:「2.8%」

約3%のシェア率は、存在価値はないに等しいことを意味します。

市場参入時のまさに拠点目標として捉えるべき数値となります。

したがって、約3%まではランチェスター戦略では、市場参入戦略を適用し、それ以上からから競争戦略を適用していきます。

※導き出した計算式⇒(6.8%×41.7%)

以上が「4つの目標数値」となります。

そして、先にあげた「3大目標数値」とこの「4つの目標数値」を合わせた

目標値をランチェスター戦略では、「7つの目標シンボル数値」と呼んでいます。


名和田 竜(なわた りょう)/プロフィール

NPOランチェスター協会常務理事 副研修部長(認定インストラクター)
相模女子大学非常勤講師、 澤田経営道場講師兼選考委員

ランチェスター戦略学会役員 リレーションステージLLP(代表)

広告代理店にて、営業・プランナーとして数多くの大手メーカー及び
流通企業等の成功企画を手掛ける。
雑誌・TVなどにも取り上げられた企画も多数。
現在はコンサルティング及び研修講師をはじめ、
執筆・講演など幅広く活躍中。相模女子大学では
「メディア産業論」「e-ビジネス論」の講義を担当。
ライフワークである「戦国武将・幕末維新に学ぶシリーズ」も人気講座として定着。
公益財団法人澤田経営道場のカリキュラム及び教育全般も担当。
その他、マーケティングカレッジ等でもレギュラー講師を務める。

●主な著書等

『ジャパネットたかたすごい戦略』(あさ出版)
『しくじり企業も復活する7つの大原則』(ビジネス社)
『まんがで身につく!ランチェスター戦略』(あさ出版)
他多数

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