営業成績を伸ばす、基礎力とは 【後編】
~お客さまを幸せにする「質問力」~
営業の世界が「モノを売る時代から、価値を売る時代へ」と変化し、簡単にはモノが売れなくなった状況下では、課題解決方法(ソリューション)の提案が不可避となっています。そこで必要になるのが、営業パーソンの基礎力とも言える「準備力」と「質問力」。
前編でご紹介した「準備力」に続いて、後編では「質問力」について考えてみましょう。
お客さまの幸せを具現化する「質問力」
お客さまの本音を理解する
お客さまが何に期待しているかを知る
お客さまに何をすれば喜んでもらえるか考える
現代の営業活動は、上記を実践して互いの目的を達成することだと言えます。
かつての日本では国民の多くが同じ目的を共有していたので、マス・マーケティング<対象を特定せず、画一化された方法のマーケティング戦略、マーケティング活動。大量生産・大量消費時代の考え方>による対応で営業が成り立ちました。しかし、物質的な充足感が満たされるに従って人々のニーズは多様化し、モノ先行の営業では通用しなくなったのが現代の日本社会と言えます。
「モノを売る時代から、価値を売る時代へ」と変化した中で、お客さまにとって何が〝価値〟であるかは、聞いてみなければわかりません。また、単に聞くだけではなく、お客さまを知ることで、まだお客さま自身が気づいていない〝本当に必要な価値〟に気づかせることこそ、現代の営業パーソンに求められる役割です。お客さまのことをどれだけ考え、貢献でき、幸せ(満足)を与えられるか。そのために「お客さまを深く知る能力」が必要であり、「お客さまとつながる」ことができる人間性が試されます。その第一歩となる基礎力が、「質問力」なのです。
情報が多すぎて、選べない時代
そもそも、「質問力」が営業の基礎力になる理由が2点あります。それは
(1)お客さまと自分との情報量の差が縮まっている
(2)情報量が多すぎて、本当に必要なモノを選びづらい
ということです。それぞれの実態を見ていきましょう。
(1)お客さまと自分との情報量の差が縮まっている
かつて営業パーソンとお客さまの間には、情報量に大きなギャップがありました。そのため営業パーソンは特定分野のプロとして、情報提供や商品説明を行っていました。また、よどみなくセールストークが話せる説明型の営業スタイルが、理想的な営業パーソン像でもありました。すなわち、お客様との接触量と話し上手であるか否かが、営業目標の達成を大きく左右していたのです。
しかし情報化社会の現代では、インターネットを通じて誰でも容易に膨大な情報から必要な情報を手に入れることができます。営業パーソンとお客さまの間に、もはや以前のような情報格差はありません。説明型の営業スタイルでは通用しなくなりました。
(2)情報量が多すぎて、本当に必要なモノを選びづらい
営業パーソンとお客さまの間の情報格差が縮まったとはいえ、あまりに情報が多すぎて新たな問題が生じました。それは、「お客さま自身では、どの商品を選ぶべきか正しい判断が下せない」ということです。具体的には、ライフスタイルや収入、将来のビジョンが多様化し、本当に必要なのはどの商品か真のニーズを理解できず、お客さまは自分に合う商品を選べない、という悩みです。
そこで営業パーソンには「十分な情報量を持ち、商品を説明する存在」ではなく「お客さまのニーズを深く理解し、本当に必要な商品を教える存在」としての役割が求められるようになりました。だからこそ、お客さまに質問を投げかけながら話を展開する「質問力」が、営業パーソンの必須スキルとして注視されるようになったのです。
「質問力」がもたらすメリット
<悩める営業パーソン>
・自分の営業方法に自信が持てない
・毎月の営業目標が達成できない
・お客さまとの雑談は盛り上がるが、商談につながらない
・商談ができても、クロージングに至らない
悩める営業パーソンには共通点があります。それは、お客さまの潜在的な欲求を理解していないという点です。潜在的な欲求が理解できていれば、お客さまに何を提案すべきか見極められるはず。しかし、それを理解せずに自社商品を提案しても、お客さまはあなたの行動を単なる「売り込み」としか思わないでしょう。
<質問力を活用する営業パーソン>
・お客さまとコミュニケーションをとりながら、ニーズを引き出す
・お客さまに契約の必然性を認識させる
・お客さまが自然に情報を開示してくれる
・ニーズのないお客様を追いかける必要がなくなる
・顧客満足度が向上する
「質問力」を活用する営業パーソンは、会話を通してお客さまの本音を可視化し、契約意欲を喚起します。
目的を意識し「共感」で効果を高める
◎質問の目的を明確にする
質問するのは、「お客さまの潜在的な志向やニーズを顕在化させ、気づかせる」ためです。なぜなら、本当はニーズがあるのにその必要性に気づいていない場合がほとんどだからです。また、何となく必要性は感じていても、導入メリットの具体的イメージがあって決断できるケースはまれです。そこでまず質問を通じて、「お客さまの潜在的な志向やニーズを顕在化させ、気づかせる」会話を展開することから始めましょう。
◎共感で相手の心を開かせる
お客さまの潜在的なニーズを引き出す上で大切なのが「共感」です。ただ機械的に質問するのではなく、お客さまが積極的に本心を語りたくなる状況を作ることが大切になります。あなたの質問に対する回答をくり返すうち、お客さま自身が次第に自分の考えや本心に気づき、あなたの商品への購入意欲を高め、決断する。その一連のストーリーを描いてください。つまり、質問と共感をセットと考え、お客さまにアプローチすると良いでしょう。
「質問力」の具体的手法
1. いきなり「質問」から始めない
商談場面でいきなり商品説明を始めるのは、愚の骨頂です。お客さまの真の欲望を理解しないまま商品説明をしても、納得が得られないのはあたりまえです。何気ない会話に質問を織り交ぜながら、お客さまのニーズの全体像を把握することに努めてください。
また、いきなりの質問は尋問するような雰囲気を生み、お客さまに不信感を抱かせます。質問する前に「まずはお客さまの現状を理解したいので、いくつかご質問してよろしいでしょうか?」と断りを入れましょう。
質問内容は商品の特性によってさまざまですが、事前の会話でニーズの全体像を理解しておけば、的確な質問ができますし、その後の商談もスムーズに進みます。質問を通じて聞き出すべきポイントは、以下の項目です。・商品やサービスに興味を持った理由や背景
・お客さまの現状と課題
・お客さまが思い描いているビジョン
・予算
2. オープンクエスチョンとクローズドクエスチョン
代表的な質問手法に「オープンクエスチョン」と「クローズドクエスチョン」があります。「オープンクエスチョン」とは、回答の範囲を制限しない質問。例えば、「休日は、どのようにお過ごしですか?」「働く目的をどうお考えですか?」など、さまざまな回答が予測できる質問のことです。現状の課題や関心のある話題を深く掘り下げることで、お客さまが自分でも気づいていない潜在的なニーズを開示するきっかけになります。
「クローズドクエスチョン」とは、「はい」か「いいえ」、あるいは「A」か「B」といった択一で答えられる質問です。例えば、「価格と品質ではどちらを重視しますか?」「過去に類似商品を購入したことはありますか?」など、お客さまの意志や意向を素早く把握できるため、ニーズの有無を明確に線引きすることが可能です。
「オープンクエスチョン」と「クローズドクエスチョン」は、どちらか一方だけではなく、双方を組み合わせて活用することで違和感のない会話を実現できます。例えば、
あなた :現在、顕在化した経営課題はありますか?(クローズドクエスチョン)
お客さま:あるね。
あなた :ちなみに売上増加とコスト削減ではどちらが課題ですか?(クローズドクエスチョン)
お客さま:コスト削減かな。
あなた :コスト削減の中で特に気になる項目はありますか?(オープンクエスチョン)
お客さま:まずは人件費だね。
このように「クローズドクエスチョン」→「クローズドクエスチョン」→「オープンクエスチョン」の順で質問しながら、聞きたい情報を引き出していきます。
3. 質問で会話を誘導する
「質問力」は単に情報を得るためだけではなく、質問を通じて自然に会話を誘導し、具体的な商談への流れをつくる上でも活用できます。例えば、
あなた :現在は賃貸マンションにお住まいとのことですが、ご家族は何名様ですか?
お客さま:うちは夫婦と子ども二人の4人家族だね
あなた :では、ファミリータイプのマンションをご検討でしょうか?
お客さま:そうだね、今より広い物件を探している
あなた :広めといいますと、80㎡以上かそれとも100㎡前後でしょうか?
お客さま:80㎡もあれば十分かな。子どもが巣立てば夫婦二人だし、子どもは二人とも高校生で、大学は県外を希望しているから。
あなた :では、将来的に間取りが変更しやすい物件が良いかもしれませんね。
お客さま:確かに、その方がありがたいね。
あなた :ちなみに新築、中古、賃貸、いずれかのご希望はありますか?
お客さま:安いに越したことはないけど、終の棲家と考えているから、できれば新築か中古の分譲で、年をとっても落ち着いて暮らせるエリアがいいかな。
この会話を通じて「80㎡程度の分譲物件」「生活環境が整ったエリア」「間取り変更が自在な物件」というキーワードが得られました。
この後に「これ以上かかるなら検討外という価格はどれくらいか、イメージはお持ちですか?」と質問すれば、購入希望額の上限が把握できます。聞きたいことをストレートに質問するとお客さまから警戒されがちですが、自然な流れで質問をくり返しながら聞きたい項目へじっくり話を詰めることで、情報を自然に引き出すことができます。
4. テストクロージングで契約の意思を確かめる
「テストクロージング」とは、お客さまに契約の意思があるか確認するためのテクニックです。「もし契約してくださるとしたら、どのような条件を優先しますか?」と質問した場合、具体的な条件を聞き出せるケースと、あいまいな回答が返ってくるケースがあります。お客さまに「見積もり次第」と言われたら、あとは金額次第で契約の可能性があることが分かります。しかし回答があいまいなら、まだ契約の意思が固まっておらず情報収集の段階ということです。会話の途中に「テストクロージング」を挟むことで、提案内容にお客さまがどの程度納得しているか、確認することができるのです。
営業力とは、質問力
「質問力」では、質問手法や質問内容にばかり気を取られがちですが、先述した「潜在ニーズの顕在化」や「相手への共感」を念頭に置き、質問する目的を明確にした上で会話を進めましょう。ノウハウだけ記憶して機械的に質問を浴びせるのではなく、「質問力」を本質的に理解した上で自分の営業スタイルとして確立し、「顧客満足」と「売上の最大化」を実現するために不可欠な必須スキルとして、しっかり身につけて欲しいと願っています。
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