『“弱者逆転の法則”ランチェスター戦略入門シリーズ①』

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【VOL1】-小が大に勝つ!“弱者逆転の法則”「ランチェスター戦略」とは?-


●“ビジネス戦略のバイブル”とも言われる「ランチェスター戦略」

わが国が誇る「競争戦略・販売戦略のバイブル」といわれるランチェスター戦略。
名前だけは知っている。何となく聞いたことがある・・・・まさに知る人ぞ知る「ランチェスター戦略」。

一体、ランチェスター戦略とはどのような戦略なのか?

今回はその辺りから解説していきましょう。

 

「ランチェスター戦略」は、日本経済が高度成長から低成長へと移行し、販売競争が格段に激しくなった時代の転換期である1972年に、経営コンサルタントだった故・田岡信夫氏が、体系化させたマーケティング(経営)戦略理論です。

その原点は、「ランチェスター法則」「クープマンモデル」といった戦争理論にありますが、これを経営に応用し、企業間競争に勝つ為の「理論と実務体系」として構築したものが今日の「ランチェスター戦略」といわれるものです。

 

古くは、トヨタ・花王・松下電器・日本生命・アシックス・アサヒビール・・・など、現在の日本を代表する多くの企業が導入し、成果を上げてきた歴史が有り、近年では、H.I.S.やソフトバンク、アパホテルなどもランチェスター戦略を実践し今日があると公言しています。

 

また、大手企業に限らず、街の家電店や小売店・学習塾・会計事務所、或いは士業やライフプランナー・個人事業主に至るまで幅広く取り入れられ、その成果を上げています。

大手企業から中小零細企業まで、全てに適用できる戦略。そう言い切ってしまっても過言では有りません。

 

ではなぜ、そんな使い勝手が良いのか?

一言で言ってしまえば、ランチェスター戦略は「原理原則」に基づいた戦略だからです。

「原理原則」は普遍であり不変です。したがって、流行に捉われることが有りません。

ですので、企業の規模や業種業態、さらに言うと時代にも影響されることなく、今日まで使われているのです。

ランチェスター戦略の特徴を簡単にあげるなら以下の通りでしょう。

・勝つ為の原理原則に基づいた戦略理論である

・弱者・強者の戦い方を明確にし、その取り組み方が体系化されている

・総合戦で勝つことよりも、まずは特定の市場にフォーカスしNO.1を目指す

・市場シェアを断基準値とし、シェアアップの為の戦略が具体化されている

 また、ランチェスター戦略は、「小が大に勝つ!」「弱者逆転の法則」などと形容されます。

その理由は、いきなり「総合戦(力)で勝つ」ということを目的としていないからです。小さくても良いから、自分の勝てるところ、強みを活かせるところは何処かを見極め、そこで徹底的に戦っていき、NO.1になるということに主眼を置いているからです。

●あのH.I.Sもランチェスター戦略を実践し今日がある!?

1つ例を挙げて説明いたしましょう。

旅行代理店のH.I.S.は、皆さんご存知かと思います。しかし、今や誰もが知る企業に成長したH.IS.も最初から総合旅行代理店では有りませんでした。

創業期は“格安航空券”の販売に一点集中し、そこでNO.1となり、次へと展開していきました。

もう少し詳しく解説していきましょう。

 

H.I.Sグループの会長兼社長を務めるのは、創業者でもある澤田秀雄氏です。

澤田氏は、私も常務理事を務めるNPOランチェスター協会とは深い関わりのある人物であり、明確にランチェスター戦略のエッセンスを自社に取り入れ、今日があることを明言されております。

また、澤田氏は「公益財団法人澤田経営道場」という時代のリーダー育成機関も主宰されており、そこでの教育方針としてもランチェスター戦略は大きな役割を担っております。

余談ですが、私自身も澤田経営道場では講師兼カリキュラム作成の責任を担う立場で携わっております。

 

さて、話をH.ISに戻しましょう。

澤田氏は、1980年の創業時にランチェスター戦略に出会い、今日の繁栄を築いたといいます。

「大手のやっていないことをやる!」 「まずは“NO.1”をつくる!」

これらランチェスター戦略の考え方に従い、当時としては、非常にニッチであった「格安航空券」の分野で1位を目指していきます。

 

この頃航空券は、外国で買うと同じものが日本の半額で買えたといいます。

「このままの状況では、お金のない若者が海外に行きにくい。もっと若者に海外を体感させたい。」という思いもあり、航空券価格の世界標準化に挑戦するというビジョンも掲げ、「NO.1」を目指していくことになります。

商品は、格安航空券。ターゲットは個人旅行の若者。

また、取り扱う格安航空券は「近くより遠く」・・・・つまり、利益の出るところに絞り込みます。

HIS流「NO.1戦略」のスタートです。

 

ちなみにこの業界は、既得権益の強い業界でもあったため、大手に睨まれると潰されてしまう怖さもあったといいます。したがって、とにかく目立たず、取材も受けず販売していきました。

この分野で1位になるまでは、他の分野には一切手を出しません。

当時業界で一番利益率の高かったパッケージツアーに関しても、その間は手を出しませんでした。

 

そして、遂に「NO.1」になります。

そこから初めて、パッケージツアーに進出していきますが、ここでも大手と真正面からぶつかることは避けます。

「安いツアーの個人旅行を対象とする。」「得意な地域をつくる。」

この2つのコンセプトのもと、当時大手は力を入れていなかった「バリ島」に注力します。

その後、戦略どおり、バリ島で「NO.1」になり、この戦略を他の地域にスライド(横展開)させていき、今日の地位を築き上げました。

「弱者は、市場や顧客を細分化し、重点化し、差別化し、小さな一番を目指す!」

まさにこの言葉を地でいったのが、H.I.S.なのです。

 

さらに澤田氏は、その後もH.I.Sでの成功事例を他の分野にも応用していきます。

「モンゴル銀行」・・・当時モンゴル4位だった赤字銀行を引き継ぎ、5年強で預金料・利益NO.1へ。

「ハウステンボス」・・・バブルの負の遺産・九州最大の不良債権といわれたテーマパークをわずか半年で黒字化。

これらもランチェスター戦略のアウトラインをしっかり理解し、澤田流にカスタマイズし、実践した結果といえるでしょう。

いかがでしょうか?

少し理解が深まったのではないでしょうか?

 

では、このランチェスター戦略は、どの様に生まれ、体系化されていったのか?

その原点と背景について次回は解説していきたいと思います。


名和田 竜(なわた りょう)/プロフィール

NPOランチェスター協会常務理事 副研修部長(認定インストラクター)
相模女子大学非常勤講師、 澤田経営道場講師兼選考委員

ランチェスター戦略学会役員 リレーションステージLLP(代表)

広告代理店にて、営業・プランナーとして数多くの大手メーカー及び
流通企業等の成功企画を手掛ける。
雑誌・TVなどにも取り上げられた企画も多数。
現在はコンサルティング及び研修講師をはじめ、
執筆・講演など幅広く活躍中。相模女子大学では
「メディア産業論」「e-ビジネス論」の講義を担当。
ライフワークである「戦国武将・幕末維新に学ぶシリーズ」も人気講座として定着。
公益財団法人澤田経営道場のカリキュラム及び教育全般も担当。
その他、マーケティングカレッジ等でもレギュラー講師を務める。

●主な著書等

『ジャパネットたかたすごい戦略』(あさ出版)
『しくじり企業も復活する7つの大原則』(ビジネス社)
『まんがで身につく!ランチェスター戦略』(あさ出版)
他多数

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