営業に不可欠な「質問力」を鍛える 【前編】

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~なぜ「質問力」が必要なのか~

個人顧客向けに少額商品を営業する場合と、法人顧客向けに高額商品を営業する場合では、商談にかける時間や方法、スタンスに若干の違いがあります。特に、前者は短時間で、自社製品やサービスのメリットにフォーカスした商談を進めることが多いのに対して、後者はある程度の長期間で、法人顧客の課題解決(ソリューション)を軸に商談を進めます。とりわけ、後者において重要なのが「質問力」。今回は、営業パーソンに不可欠なスキルである「質問力」について考えてみましょう。


営業は、時代とともに進化する

営業という仕事は、時代とともに進化していきます。かつて多くの営業パーソンは、商品知識とセールストークなどのテクニックを中心に学んでいました。もちろんそれらを磨くことは重要ですが、そのベースには、いかに言葉巧みに相手の反論をかわし、うまく相手を説得するかという視点があったように感じます。「営業は話し上手で、機転が利いていなければダメ」という認識。しかしそれは、もはやひと昔前の営業のイメージです。

営業という仕事は、すでに新たな時代に入っています。それに気づかないまま従来の方法や考え方で活動し、なかなか営業成績が上がらずに苦労している人が少なくありません。

ご承知の通り、営業は、アプローチ、コミュニケーション、プレゼンテーション、クロージングの4段階で進められ、この流れは昔も今も変わりません。しかし時代によって、それぞれの段階における時間や意識の比重は変化してきました。

【第一段階/~1990年ころ】

かつて営業パーソンは、ひたすら「売る」ことに注力していました。挨拶をしたら、すぐにプレゼンテーションをして、クロージングする。相手の状況を深く知りたいという意識が薄くても、とにかくモノが売れた時代です。モノがなくて売れた時代から、モノはあるがカネもある時代が続きました。営業パーソンには商品やサービスがあり、相手には資金がある。だから「いかにして買ってもらうか」に焦点が置かれていたように思います。

【第二段階/1990年代】

バブル経済が崩壊し、経済は停滞しました。この時代、相手のニーズを明確化する、つまり、相手は本当に十分な資金(予算)があるのか、また、本当に買う気があるのかという点の確認に、意識的に時間を割いていました。互いにリスクを回避し、無難なラインで商談を進める。こうしてモノもカネも動かない、停滞した時期が続きました。

【第三段階/2000年代】

次の段階は、相手に対して、なぜその商品やサービスを買う必要があるのか理由を示して説得する、プレゼンテーションに時間と労力を割く時代が到来しました。また、多様な選択肢を提示しながら、着実にクロージングすることに多くの時間をかけるようになりました。つまり「YES」を獲得するため、粘り強く相手を説得するというスタンスです。

【第四段階/2010年~現在】

そして営業に関する考え方は、この10年で大きく変わっています。リーマンショックによる再度の経済停滞の後、ビジネス社会では「営業=信頼の確立」という考え方が主軸になっていきます。そのため現在の営業活動では、「信頼の確立」に大半の時間と労力が費やされます。特に継続的な取引関係を構築するため相手を十分に理解し、課題解決(ソリューション)で貢献する、ビジネスパートナーとしてのスタンスが重視されるようになりました。こうした信頼関係構築のスキルとして注目されているのが、「質問力」なのです。

営業の仕事は、顧客の課題を解決すること

「自分は口下手だから、営業に向いていない」と思いこんでいる人が、意外に多いことに驚かされます。売れる営業パーソンが、必ずしも話し上手とは限りません。むしろ、口下手でも安定して高い営業成績を上げる人は、珍しくありません。

そのカギは「聞き上手」であること。話し上手な人は、得てして自分が伝えたいことに気をとられ、相手のサインを見逃して、本当に求めていることをつかめないことがあります。「満足なプレゼンができたのに、なぜうまくいかないのか?」。

一方、口下手な人は、自分があまり上手に伝えられないことを知っているので、とにかく相手の話をよく聴こうという姿勢が自然に身についています。相手の話を注意深く聴くうちに、質問したいことが次々に出てくるのです。それを、一つ一つ丁寧に問いかける。質問のポイントが的確かどうか、相手はすぐにわかります。「知りたい」という気持ちから生まれたシンプルな質問は、ストレートに相手に届きます。

営業パーソンの役割は、単に自社の製品やサービスを買ってもらうことではありません。

本当に大切な目的は、顧客が抱えている課題を自社の製品やサービスを使って解決し、その積み重ねによって「信頼」を深めていくことです。ここが重要なポイント。買わせようという気もちがあからさまに言動に出ている営業パーソンを、相手が信用するはずはありません。信頼に結びつくのは、話をよく聴き、純粋に「知りたい」という気もちで丁寧に接する「誠実さ」なのです。

人は話を「聞く」より「話す」の方が好き

商談に限らず、人は自分の話を聴いてほしいものです。特に、得意分野や興味があることに関しては、「聞く」以上に「話す」ことへの心地よさを感じます。この大原則に、営業パーソン自身が陥ってはいけません。あなたではなく、相手に話をさせるのです。

相手にも、話し上手な人と口下手な人がいます。話し上手な人は、あなたのちょっとした質問にもしっかり答えてくれるでしょう。しかし、口下手な人から、いろいろな情報を聞きだすのは一苦労です。しかし、ここに知恵が生まれます。「どうしたら、もっと話してくれるだろう」「本当は何を求めているのだろう」と考えながら工夫することが、あなたの「質問力」を磨いていきます。

簡単にYESかNOで答えられる質問ではなく、答える際に相手が説明する必要がある質問を心がけましょう。素直に「教えてください」というスタンスで良いのです。また、相手の言葉を復唱しながら、さらに深い質問をしましょう。そして、相手の思考や感情を想定し、同意しながら話しやすい雰囲気をつくりましょう。もちろん、表情やあいづちなど、相手の答えに対するリアルな反応も大切です。言葉では上手に表現できなくても、態度で誠意は伝わります。

面会が終わろうとするころ、相手があなたに対して、「楽しかった」「会って良かった」「また会いたい」と思うかどうか。それは、立て板に水のようなあなたの雄弁さより、相手に気分よく話をさせる「質問力」の方が威力を発揮します。相手に口を開いてもらうことは、つまり、相手に心を開いてもらうことでもあるのです。


後編では、具体的にどのようなポイントで「質問力」を磨いていくかについて、『SPIN法』という手法をもとに話を進めていきます。

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