目標は『進化』する~SMARTの法則を使った、目標の見直しと修正とは~

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前編では、目標設定に役立つフレームワークとして『SMARTの法則』をご紹介しました。今回は実際の事例を見ながら、『SMARTの法則』に照らし合わせて目標をブラッシュアップする、また、必要に応じて修正するプロセスについて考えてみましょう。


「SMARTの法則」を使った、目標設定の実例と~その目標で大丈夫?~

【営業リーダー・松本さんの事例】
松本さんは、S社の営業リーダーです。そろそろ、来期に向けた目標設定の時期がやってきました。まずは、松本さんの職場の背景をご紹介しましょう。

◎松本さんが勤務するS社の、昨年度売上は80億円。

◎今年の全社売上目標は、対前年比5%の84億円。

◎松本さんが所属する営業二課は、

  総勢16名で全4チーム。

  昨年度の二課(全4チーム)の売上実績は、20億円。

◎松本さんは1つのチームのリーダー。

  昨年度のチーム売上は、4億円。

この背景のもと、松本さんは、来期のチーム目標を次のように設定しました。

松本さんが設定した、来期のチーム目標

「売上目標 4憶2000万円」

確かに、わかりやすく明確な目標です。


『SMARTの法則』は、5つの視点の頭文字からとったフレームワークとご紹介しました。

【図表参照】
S Specific 具体的、明確な
M

Measurable

Motivating

測定可能な

 誘引づけられた

A

Assignable

Attainable

Agreed upon

Achievable

権限移譲できる

 到達できる

 同意できる

 達成可能な

R

Realistic

Relevant

現実的な

 関連する

T

Time-related

Timely

Time-specific

Trackable

期限のある

 時勢に合った

 期限が明確

 追跡可能な

※太字はジョージ・ドランが、細字は他の有識者が当てはめた単語。

まとめると次のように定義できます。

S 具体的で
M 測定でき
A 達成可能で、同意が得られており
R 現実的で、関連性があり
T 期限のある    


では松本さんの設定した目標を、『SMARTの法則』に沿ってチェックしてみましょう。

S 具体的であること

誰が読んでも同じ意味で、数値で表現された「売上目標4億2000万円」は具体的です。

ただし、もっと細分化することで、より具体的になります。

例えば、4億2000万円を細かな内訳で考えてみましょう。

 A社/1億2000万円
 B社/9000万円
 C社/7000万円
 D社/5000万円
 新規開拓/9000万円

このように顧客ごとに細分化することで、どこにどれだけ注力すれば良いかが分かります。また、顧客ごとの戦略を具体的に考えることができます。他にも商品やサービス、あるいは販売ルートで細分化する方法があります。

M 測定できること

測定できるとは、客観的に事実を判断できるという意味です。数値目標であれば、達成したかどうかは一目瞭然です。「売上目標4億2000万円」は数値で表されており、測定可能と言えます。また、前述のように取引先や商品、販売ルートなどで細分化すると、それぞれの達成・未達成まで把握できます。

A 達成可能で、同意が得られていること

達成可能とは、希望や願望ではなく、行動すれば目標達成が可能という意味です。「売上目標4億2000万円」は、前年実績から5%アップしています。これは果たして、達成可能でしょうか? 

多くの組織はさほど大きな組織変更はせずに、前期とほぼ同等の体制を継続するのが一般的です。そのため、前年実績から大きくずれることは考えにくいと言えます。また、メンバーも1年間のキャリアを積み、スキルは向上しているはず。つまり、5%は十分に達成可能で現実的な目標数値です。

もちろん「売上を昨年の3倍にする!(対前年比300%)」といった難易度の高い目標は、新商品や体制、戦略など抜本的なテコ入れをしない限り、実現不可能です。根拠がないまま、勢いだけで極端に高い目標を設定するのは現実的ではありません。

R 現実的で、関連性があること

これは、会社全体の目標と、部門やチーム・個人の目標が関連している、という意味です。一般的に、経営陣が設定した経営目標が部署におろされ、それに基づいて部署ごとに目標が設定されます。さらに、個々のチームやメンバーへと目標が細分化されます。そこにギャップはありませんか?

松本さんの会社では、「対前年比5%の売上成長」という方針が打ち出されており、前年実績に5%上積みした「売上目標4億2000万円」という松本さんチームの目標は、全社目標と整合します。しかし、「全社で30%の増収・増益をめざす」という目標であれば、5%の上積みでは不十分とみなされるかもしれません。チームや個人の目標は、全社の目標と連動しているものにしましょう。

T 期限があること

いつまでに達成するのか、期限が明確になっているかは大前提です。企業は、決算期に合わせて、期限1年間の年間目標を設定します。「売上目標4憶2000万円」という目標も、1年間の期限付きであり、要件を満たしています。ただしリーダーは、最終期限だけ設定するのではなく、できれば四半期単位で進捗状況を把握しておく必要があります。


ここまで見てきた目標は、数字で示した「成果目標」です。しかしこれだけでは、達成に向けた具体的な行動イメージがわきません。「成果目標」はいわば「ゴール」。ならば、「ゴール」に至る「プロセス」が必要です。そこで、「ゴール」である「成果目標」と同時に、「プロセス」を示す「行動目標(行動計画)」を設定することで、達成への道筋を明確にすることができます。

考えてみれば「成果目標」は、自分でコントロールしにくいものです。例えば、売上は顧客が購入して初めて成果になります。もちろん購入してもらうためにあらゆる努力をしますが、最終判断は顧客に委ねられています。「思った通りの成果につながっていない」という状態は、「思った通りに顧客が購入してくれない」ということです。

しかし「行動目標」は、努力すれば自分でコントロールできます。そこに力を集中することで、モチベーションを保ちやすくなります。

 

「行動目標」も『SMARTの法則』に従って、具体的で、測定でき、達成可能で、関連性と期限が明確なものにします。例えば、

・新規顧客開拓のために、月10件の新規アポイントを設定する

・既存顧客を週30件訪問する

・顧客ヒアリングを3カ月に一度実施する

・顧客ごとに、新たな提案案件を3件発掘する

このように、数値化・言語化した「行動目標」を立てて下さい。

 

あなたの立てた「成果目標」に、行動目標」は伴っているかチェックします。そして、設定した「成果目標」と「行動目標」を身近に置いて、常に意識しましょう。

目標は、何度でも修正して下さい。期初に立てた目標は、その時点における展望に過ぎません。さまざまな外的・内的要因によって、達成トレンドが予想からそれるのは珍しいことではありません。

もし、目標が現状に合わなくなったら、すぐに見直して下さい。その際にも、『SMARTの法則』が役立ちます。5つの視点に照らし合わせることで、より現実的で達成可能な目標に修正できます。結果としてメンバーの迷いがなくなり、行動の量と質が向上し、成果につながりやすくなるでしょう。成果が出ることでモチベーションは向上し、社内のムードは好循環へと転化します。

もちろん、リーダーとメンバーが、日頃から目標を共有することは必須条件です。たとえ達成トレンドが順調に推移していても、最低3カ月に一度、できれば月・週単位で振り返りの機会をもちましょう。修正は、目標達成に不可欠です。何より、リーダーとメンバーの意識が同じ方向を向くことで、チーム一丸となって達成をめざす勢いがつきます。

『SMARTの法則』を活用した、「良い目標の設定」と「細やかな目標管理」が、皆さんをイメージした「ゴール」へと導いてくれることでしょう。