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学習して進化する組織をめざす~「ノウハウ」から「ノウフー」への転換~

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~「ノウハウ」から「ノウフー」への転換~

「ノウハウ」とは、技術的な専門知識や、物事を進めるための手法や知識・知恵を指します。ノウハウの習得や蓄積はビジネスにおいて非常に重要ですが、一人の人間が身につけられるノウハウの量や種類には限界があります。そのためノウハウの共有を目的にマニュアルやテキストの作成を計画しても、現場で役立つ情報ほど単純にマニュアル化できないため作成が頓挫する、あるいはせっかく作成したマニュアルやテキストが活用できていないという企業が少なくありません。

そこで、多岐にわたる「ノウハウ」を「誰が知っているのか」検索する仕組みが注目されるようになりました。誰がその道の専門家なのか、ベテランなのかを「見える化」する仕組み。それが「ノウフー(以下、know who)」です。


1. know whoとは、何か

know whoとは、文字通り「誰が知っているのか」という意味であり、誰がどのような知識を持っているのかを共有する仕組みです。事前にメンバーが持っている専門的なスキルや知識、経験値やノウハウを共有情報として蓄積し、それを必要とするプロジェクトや案件、チームや人メンバーと結びつけて有効活用します。人的資源を有効活用するための、重要な仕組みと言えます。

know whoは、「知識管理(ナレッジマネジメント)」という考え方に基づいています。この知識は、メンバーが蓄積しているノウハウ・顧客情報・技術的知識・あらゆる事業やプロジェクトのプロセスなど、いわゆる「暗黙知」のことです。「暗黙知」とは経験や勘に基づく知識で、人はこれを言語化しない状態で有しています。このデータ化や数値化が難しい「暗黙知」を共有し、活用することで組織の生産性を向上させる経営手法が「ナレッジマネジメント」。つまり「暗黙知」を「形式知」に変換する考え方です。

2. know whoが注目される理由

know whoが注目される以前は、個人のノウハウ習得が重要視されていました。しかし先述の通り、個人が習得できるノウハウには限界があります。ノウハウ共有のためマニュアルやテキストの作成を進めても、データ化や数値化が難しいノウハウを明文化する〝壁〟に多くの企業が直面していました。そのうち、ノウハウを知る人に直接聞く方がスピーディーな問題解決につながり、結果的に生産性が向上することに気づいたのです。そのため近年は、know whoの考え方に基づいて、労働環境の改善や働き方改革を進める企業が増えています。

know whoの導入は、組織が大きいほど有効に機能するようです。個人が組織に関するすべての知識に通じるのは不可能であり、非効率です。また「団塊の世代」の大量退職でこれまで蓄積されたknow howが大幅に減少したことや、年々深刻化する人材不足で人材を有効活用できていないという課題も、背景にあるようです。

3. know whoの「場」を育てる

know whoを組織に導入する上で、どの「場」にその仕組みを構築すればもっとも円滑に機能するか、企業の特性に合わせて検討することが大切です。

既存の人事データベースに追加登録する方法もありますが、メンバーが自身で自分の強みや経験値などの情報をデータベースに登録し、社内のイントラネットで稼働させるシステムが主流になっています。

◎社内イントラネット

know who導入でもっとも一般的なのは、「社内イントラネット」上で情報を共有する方法です。メンバーが事前に業務経歴や得意分野、スキル、資格等を登録し、イントラネット上で公開します。このデータベースから検索機能を使って情報を引き出します。

◎人材管理システム

一元管理された人事管理システムに、メンバーのスキルや知識などを可視化できるページを増設している企業もあります。このビッグデータをもとに「暗黙知」の情報共有のみならず、人材育成や適材適所の人材配置など幅広く活用することも可能になります。

また、電子掲示板や社内ブログ、社内SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)などのグループウェアを導入し、社内のコミュニケーションを活発化させることでknow whoを実践しているケースも増えています。

◎グループウェア

グループウェアはもともと業務効率化を目的としたコミュニケーションツールで、主にスケジュールやTODO、掲示板、プロジェクト管理など、業務上の情報共有や進行管理を行う場です。ここで、特定の課題に関する知識(回答)を集めることもできます。

know who利用の場合は、グループウェア内にある掲示板に知りたい情報を書き込みます。するとチーム内でそれについて知っている人が回答を書き込みます。「あの人に聞けば解決できるよ」とコミュニケーションを図りながら情報共有することもできます。

◎社内SNS

社内SNSは、もともと組織活性化を目的に発達した場で、所属部署や役職などの垣根を越えて情報共有やコミュニケーションができる点が特徴です。

know who目的の活用で言えばグループウェアに似ており、そこに質問を書き込んで回答をもらいます。むしろSNSの方がグループウェアより手軽に利用できて心理的ハードルも低いため、質問と回答のやりとりに限らず、その場でメンバーがアイデアを出し合い解決策を模索するケースも少なくありません。きっかけはknow whoであっても、積極的なコミュニケーションによるチームの活性化につながります。

〈導入例〉

大手通信企業の社内SNSは、当初10人でスタートし、2年後には7500人以上が参加する巨大社内ネットワークに成長しました。これは全メンバーの約15%に相当します。サイト内にはコミュニティが337開設され、173が業務用、残りがレクリエーション用のコミュニティです。情報インフラとしてすっかり定着したこのサイトのおかげで、部門の壁を越えた情報交換や議論が活発に行われるようになりました。その他にも、大手や中堅企業の多くで社内ブログや社内SNSが成果を上げています。今後は、中小企業においても社内SNSの活用場面が広がるでしょう。

4. know whoの消滅を防ぐ

know whoは「誰が何を知っているのか」を可視化する仕組みですが、メンバーが退職してしまうと、そのノウハウは消滅しknow whoとして機能しません。長年にわたって蓄積された知識や知恵の消滅は、企業にとって大きな損失です。人材不足がますます深刻化している現状において、一朝一夕では蓄積できないノウハウの消滅は、ビジネスの機会消失につながる大きなリスクにもなり得ます。

重要なノウハウに関しては可能な範囲でマニュアル化を進め、ニュアンスなど文章化しにくい部分は動画で保存しておくなど、記録としてきちんとノウハウを残す取り組みが必要です。ベテランの退職に備えて、引き継ぎの若手メンバーを任命し、丁寧にノウハウを伝授する期間を設けるなど、組織的な対策も検討しましょう。

5. know whoを意識して自分を磨く

know whoはスキルアップの軸になります。担当案件に自分には無いノウハウを加味することで、より高次な成果につながる確率が高まります。「仕事の質」を追求する上で仲間の力を借り経験値を高める中で、自分もスキルアップしていきます。さまざまな経験を通して、自分が培うべきノウハウを見極めることも大切です。得意分野や持ち味を考えながら、まだチームにはないノウハウを身に付けると良いでしょう。

ノウハウの蓄積を心がけると、次第にプロフェッショナルとしての意識が培われます。若手メンバーは力を培うために、ベテランは着実な成果と後進への伝承を意識しながらknow whoを活用しましょう。もちろんキャリアにとらわれず、他者に学ぶ真摯な気持ちを忘れてはいけません。自分の知識やノウハウで誰かをサポートする。その意識を社内に根づかせていきましょう。


know whoの活用は、個人の力を高めます。1人1人の力が高まることで、チームの力も増強します。後編では、know whoを基軸にしたチームビルディングについて、考えてみましょう。