『BANT』で法人営業を成功に導く【前編】

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~成約につながる営業質問~

営業パーソンにとって重要なスキルのひとつに、「コミュニケーション能力」があります。ここでは単にお客さまと打ち解けるだけではなく、成約につながる情報を的確に把握し、お客さまの決断をうながす関わりができているかという点が重要です。

そこで今回は、法人営業(BtoB)における質問の基本的なフレームワーク『BANT』について考えてみます。

 


個人営業(BtoC)では、あなたが扱う商材やサービスの購入を決めるのは、個人のお客さまです。目の前のお客さまが納得すれば、すぐに成約することができます。 
しかし法人営業(BtoB)の場合、成約までに何人もの人の意見が反映されるのが一般的です。「導入によってどんな成果が期待できるのか」「リスクやデメリットはないのか」「費用対効果はどの程度か」など、さまざまな面から判断されます。

そのため、法人営業を成功させるには、複数の人が納得する論理的な「購入理由」が必要です。お客さまの事業にプラスになる、あるいは現状の課題を解決するもの。つまり、あなたが扱う商材やサービスによって「生産性が上がる」「売上が伸びる」「人件費を削減できる」「問題点を解決できる」など、お客さまが「購入理由」を明確にできる提案をすることが、法人営業の絶対条件になります。

法人営業を成功に導く『BANT』とは?

法人営業において、精度の高い商談を進めるポイントになるのが『BANT』です。これはヒアリングの基本的なフレームワークであり、情報の信ぴょう性や商談の精度をはかる上で重要な指標となります。「予算」「決裁権」「ニーズ」「導入時期」の4項目を示す英単語の頭文字をつなげて『BANT』と呼ばれています。

【B】Budget:予算

お客さまは、あなたが扱う商材・サービスで課題を解決しようとしています。そこにどれだけの予算を投下するか、それによってあなたの提案内容が変わるはずです。 ですから、聞きづらくても「予算」は早い段階で単刀直入に聞くべき要素です。例えば、「ご予算に応じたご提案ができます。目安だけでも教えて下さい」と質問してみましょう。

【A】Authority:決裁権

予算や組織の規模によって、決裁権を持つ方が異なるのが一般的です。予算と照らし合わせ、どなたが決裁権を持っているのかは必ず押さえておきましょう。また、決裁に至るまでの社内フローを確認しておくことで、”土壇場でのどんでん返し”を回避し、着実な成約につなげることかできます。営業活動では、”ツメ”がとても重要です。

【N】Needs:ニーズ

お客さまは、あなたが扱う商材・サービスを欲しいと思っているわけではなく、それによって自社の課題をクリアするのが本当の目的です。つまり、WantsではなくNeedsにフォーカスすることが重要です。お客さまはしばしば表面的なWantsに論点を置きがちですが、その奥のNeedsを探り出し、「弊社の製品は御社の〇〇の課題を解決できます」とアピールできるよう商談を進める必要があります。

【T】Timeframe:導入時期

商談ではスケジュールを意識することが必要です。それも、あなたからスケジュール設定することで商談をテンポ良く進めましょう。お客さま任せにすると、なかなかクロージングできず、課題解決が先延ばしにされ、商談が消滅することもあります。「上半期中の導入で、年度末には成果が得られると思います」「その場合、稟議にかけるのは何月頃でしょうか?」など、スケジュールを意識して商談をリードしましょう。

『BANT』の正確な把握によって、商談の精度は変わります。『BANT』を意識したヒアリングで、成約までの道筋は明確になります。また、各項目を聞いたか聞いていないかという〇×判断ではなく、項目ごとにどこまで確認できているかが重要です。例えば、次のようにチェックポイントを詳細に設定するのもひとつ。情報レベルが確認できれば、商談を進める”次の一手”が見えてきます。

【B】Budget:予算
・「予算=見積」「予算<見積」「予算確保中」「予算未定」「未確認」
・既に予算は確保できているか?来年度予算での検討か?予算内の提案か?

【A】Authority:決裁権
・「弊社>競合」「弊社<競合」「未接触・把握済」「未確認」
・誰が決裁者か?役員会の承認が必要か?決裁者に会えたか?直接提案できているか?

【N】Needs:ニーズ
・「ニーズと提案がマッチ」「組織的なニーズあり」「関心レベル」「無関心」
・プロジェクトが動いているのか?誰が必要と思っているのか?

【T】Timeframe:導入時期
・「1カ月以内」「3カ月以内」「半年以内」「1年以内」「1年以上」
・いつまでに納品して欲しいのか?いつまでに成果を出したいのか?

『BANT』が揃わなければ、商談はどうなるか

法人営業では、『BANT』が揃わなければ成約に至りません。例えば「商品(サービス)の良さは分かるけど、私では決められない」と言われた経験が、あなたにもあるでしょう。これは『BANT』のうち【A:決裁権】が欠けていたため、成約に至らなかったケースです。

具体的なイメージを持ってもらうため、4項目のうち1項目が欠けた状態を、例として挙げてみます。

【B:予算】が欠けている場合

お会いした方が決裁者で、必要性も感じてもらい、導入したいとのことだったが、「すでに予算が確定しているので、今期の契約は無理」と言われた。

【A:決裁権】が欠けている場合

お会いした方の部署には予算があり、必要性も感じてもらい、導入したいとのことだったが、「自分には決裁権がない。上司に聞かないとわからない」と言われた。

【N:必要性】が欠けている場合

お会いした方に決裁権があり、予算も確保されていることがわかったが、そもそも必要性を感じてもらえず、商談は立ち消えてしまった。

【T:導入時期】が欠けている場合

お会いした方に決裁権があり、予算も確保され、必要性も感じてもらえたが、「今は他のプロジェクトで忙しいので、検討はそれが終わってから」と言われた

『BANT』を意識した商談の進め方

『BANT』の各項目をしっかりと認識できたら、実際に『BANT』をどう反映させ、商談を進めていけば良いか考えてみましょう。

商談の一般的な手順は、お客さまの課題を把握し、それに対してあなたが扱う商材やサービスがどのように役立つのか説明し、提案することです。しかし、初めての訪問時にそこまで伝えるのは簡単ではありません。また、せっかくの訪問が、商材やサービスの紹介だけで終わってしまうのは、決して効果的な営業活動とは言えません。そこで事前に準備をし、商談をスムーズに進める工夫をして下さい。

ニーズを予測して、回答を準備する

お客さまのニーズを予測して仮説を立て、そのニーズをどのように満たせるか、理路整然と説明できる準備をします。お客さまに確認したいポイントも、事前にチェックし、競合他社との比較や、想定問答もシミュレーションしておきましょう。

“聴き手”に徹して、深い情報を得る

深い情報を引き出すには、高度なヒアリングスキルが必要です。「7割聞いて、3割話す」つもりで”聴き手”に徹しましょう。単に「はい」「いいえ」で答えられる質問ではなく、お客さまが”話し手”になりやすい質問や会話を心がけて下さい。 
また、お客さまが気づいていない、あるいは気づいているが重要視していないニーズを刺激することで、「確かにそうだ」とお客さまのニーズを喚起できれば、あなたへの信頼感が高まり、より重要な情報を話してもらえるかもしれません。

営業活動の成果を示すクロージング

どんな素晴らしいプレゼンテーションも、最後のクロージングが中途半端では、何の意味もありません。成約に至るまで、油断は禁物です。 

クロージングは、契約・導入時期をスケジュールで決め、お客さまのコンセンサスを得ながら成約につなげるのが一般的です。「〇月までに成果を出すには、△月までの導入が必要です」など、時系列に沿って論理的に商談を進めましょう。

成約後のフォローが信頼関係の基盤

成約後のフォローも営業の大切な仕事です。もちろんアフターケアの意味もありますが、「自社製品がどのように使われ、どんな効果を上げているか」の事例になります。ここで得た具体的な情報が、以後の商談や他のお客さまとの商談に役立ちます。


すべての『BANT』を満たしているか、どの情報が欠けているか把握することは、成約の確率を高め、商談の精度を高める上でとても重要です。

後編では、『BANT』を満たすための質問ポイントや注意点、また『BANT』によってもたらされる副次的メリットについてご紹介します。