仕事に差をつける!営業心理学 【後編】

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後輩や同僚・部下など、他者のモチベーションを高める上で、どんな言葉を使って、どのように関わっていくかはとても重要です。
その基本はテクニックではなく、信頼につながるあなたの心の持ち方にあることは言うまでもありません。


後編でご紹介するのは、『アイメッセージ』『ピグマリオン効果』です。

いずれも、コミュニケーション手法や教育心理学における心理行動として有名ですが、注意しなければならないのは、テクニックとしてではなく、そこに込められたあなたの「本気度」が効果を大きく左右する点です。
口先だけで実践しても、相手は「人」。

その言葉にこめられた言霊(ことだま)を敏感に感じ取ります。あなたにとって、人との関わり方の原点を見直す良いチャンスになるでしょう。


自然な行動を相手にうながす『アイメッセージ』

『アイ(I)メッセージ』とは、「私」を主語にして相手の行動を促すメッセージです。相手の行動に対して「私」がどう感じるか言葉で表現することで、相手が自主性を失わず行動しやすいようにはたらきかけます。

これに対して、相手を攻撃するような言葉で自分の感情をあからさまにする伝え方を、『ユー(You)メッセージ』と言います。
自分の希望を伝えるのですから本来なら「私は」「私が」を主語にすべきところを、「君は」「君が」と
主語をすり替えてしまうことで、相手との関係性にストレスを生じさせます。

困っているのが「君」ではなく「私」なら、主語は「私」にして言葉を選ぶのが自然です。

例1 部下(同僚)に頼んでいた仕事が、遅れている場合

ユーメッセージ 
「どういうことだ!(君が)
15時までに提出すると言ったよな?」

アイメッセージ 
「頑張って15時に間に合わせてくれると(私が)助かるんだ。
何とか、よろしく頼むよ」

例2 部下(同僚)がミスをした場合

ユーメッセージ 
「何で(君は)ミスしたんだ! どういうことだ!」

アイメッセージ 
「どうした?(私は)◯◯君なら大丈夫と期待していたので驚いている。
今後もお願いしていいかどうか(私は)悩んでいるが、どうだろう?」

例3 部下(同僚)が書類を管理できていない場合

ユーメッセージ
「書類はしっかり保管しろ!なんで(君は)きちんとできないんだ!」

アイメッセージ
「書類をきちんと保管しておいてくれると(私は)すごく安心なんだ」

どちらの伝え方が、不要な摩擦を起こさないかは一目瞭然です。

ユーメッセージは相手を責め、やる気を失わせ、反感を生みやすい表現です。
人は他者にコントロールされることを本能的に嫌います。
命令されると反感を抱きます。
「仕事で命令するのは当然」と思う人も少なくないでしょう。

しかし人望のある人は、相手に気持ちよく動いてもらう働きかけが上手です。
予想外のことが起きると人は反射的に「君は」「君が」と相手を攻めがち
ですが、そんな時はひと呼吸おいて、「私は」「私が」に転換できないか考えてみましょう。

紹介したアイメッセージの共通するのは、あくまでも自分の気もちや感情を述べているに過ぎない点です。
相手を責めず、命令ではなく、相手に選択権を残しています。
15時に間に合わなくても(例1)、
ミスしたままでも(例2)、
書類を放っておいても(例3)、相手次第です。
しかし多くの場合、命令されたわけでは
ないのに、15時に間に合わせよう(例1)、
ミスを挽回しよう(例2)、片付けよう(例3)
という気が相手に起きやすくなります。

なぜ多くの人がユーメッセージを使いがちなのか、という理由を考えるのも大切です。人はおおむね、「自分の体験をくり返す」タイプと「自分の嫌な体験は繰り返さない」タイプに分かれます。

いつもユーメッセージを使う上司は、かつて自分が上司や親から同じようにされたのかもしれません。
「怒鳴らなければ人は動かない」という思い込みは非効率です。
相手に恐怖感を抱かせます。
マイナスなプレッシャーで相手をコントロールしようとしても反感を買うだけです。

やがて相手はそのプレッシャーに慣れ、さらに強いプレッシャーが必要になるという悪循環に陥ります。
もちろんプレッシャーで育つタイプの部下はいますが、重要なのはそれが良いプレッシャー(前向きな目標設定や適度な刺激)であることです。
理想は、相手が気持ちよく、前向きに動いてくれること。
そのために、ぜひ『アイメッセージ』によるコミュニケーションスキルを身につけましょう。

期待を素直に表現する『ピグマリオン効果』

『ピグマリオン効果』とは、「人は期待された通りの成果を出そうとする傾向がある」という心理行動です。
言い換えれば「本気で向き合えば、期待通りに相手を向上させることができる」とも言えます。

由来はギリシャ神話。
青年彫刻家ピグマリオンは、自分で彫刻した女性像があまりに美しかったため、本気で女性像に恋をしてしまいます。
抱きしめ、衣装や宝石で飾り付け、ベッドで共に眠り「彫刻の妻をどうぞ人間にして下さい」と毎晩神に祈りを捧げました。すると、彼の熱心さに心動かされた美の神アフロディーテが願いを叶えてくれたのです。 そして、ピグマリオンは元彫刻の女性と結婚して幸せに暮らしました。

ポイントは彼の「本気度」

つまり「本気で向き合えば期待通りに相手を向上させることができる」、
また別の視点(彫刻の女性像)から見れば「人は周囲から本気で期待されると向上することができる」と言えます。
この心理行動を検証し、1964年に『ピグマリオン効果(教師期待効果)」
として世に紹介したのが、アメリカの心理学者ローゼンタールです。

例1 簡単な仕事に何倍もの時間をかける部下

「時間はかかったけど、いい資料ができたな」

「コツをつかむのが早いから、
すぐに短時間でできるようになるよ」

例2 営業成績がふるわない部下

「君の能力は、まだ眠っているだけだ」

「君にしかできない仕事が必ずあるよ」

頭ごなしに叱るのではなく、「ほめる」「認める(承認する)」ことを心がければ、
良い結果につながりやすくなります。
また、怒るより褒める方が、自分のモチベーションにも良い影響を与えます

「本気」の思いが相手の心を動かします。
そして相手は、あなたの言葉だけでなく表情やしぐさからも「自分が大切にされている」ことを感じ取ります。
自分を大切にしてくれる人の期待に応えたいと思うのは、自然な心理行動です。

仕事以外でも「ほめる」「認める(承認する)」は効果的です。
「君はおもしろい人だね」「いつも机がきれいだね」「発想がいいね」などのほめ言葉は、相手に自信を与えます。
もちろん、あくまでも
「相手を信じて」「本気で」言葉を発することが大切です。

『ピグマリオン効果』の反対に『ゴーレム効果』があります。
ゴーレムとはユダヤの伝説に出てくる巨人の名前です。
ゴーレム効果はピグマリオン効果と違い、結果が悪く出ることを指します。
信頼して部下を大切にする上司は部下のやる気を引き出し、業績につなげますが、部下の扱いが雑な上司は部下のやる気をそぎ、業績や風土を悪化させます。

言い換えるなら

高い期待値で接した結果、
 相手が期待通りに
 向上するのが『ピグマリオン効果』

低い期待値で接した結果、
 相手が期待通りに
 向上できないのが『ゴーレム効果』

つまり、どちらも期待通りの結果になるという見方です。

 

◎上司や先輩社員が使いがちなゴーレム効果

・人前で叱責する

・人格を否定する、間違いを笑う

・言葉の暴力、大きな罵声

・実績を評価しない、称賛しない

・えこひいきする、無視する

「こんなこと、自分はしない」と思っていても、意外に似た言動をしている人が少なくありません。
部下や後輩がやる気を失い、業績や風土が悪化しているのなら、今一度自分の言動を振り返ってみる必要があるかもしれません。

『ゴーレム効果』は相手の向上心を無くし、『ピグマリオン効果』は相手の向上心を高めます。部下を育てるのがうまい人は、無意識のうちに『ピグマリオン効果』を活用しているようです。

大切なのは、人への期待が
「本気」であること。「本気」でなければ相手には伝わりません。

うわべだけのテクニックはすぐに相手に見透かされます。


「本気」で相手に期待をする。 その気持ちを「私」の気もちとして素直に伝える。

こうした「本気」のコミュニケーションが、部下や同僚・後輩との関係を良いものに転化させます。
何よりも、あなた自身が穏やかでポジティブな精神状態で日々を過ごせるはずです。
ぜひ、活用してください。